第4話 合体。
成実は、どこかは知らないが、見慣れた街に立っていた。
巨大ロボットの夢の中で戦う舞台となる場所であり、激しい戦闘によって壊滅的被害に見舞われるのだが、次に見る時には元通りになっていて、今回もそうだった。
それ以外にも日本の城に奈良の大仏、自由の女神像にスフィンクスなど世界の名所がそこかしこに建っている辺りに、この街が非現実の存在であることを物語っていた。
成実自身はというと、巨大ロボットの名前や操縦方法といったこの夢ならではの知識を全て持っていて、服装はというと平坂高校の制服だった。夢の中ではいつもこの恰好で、他の服を着ていたことは一度も無い。
そして左腕には、今の状態が夢だという一番の証拠となる四角形で、上部に表示盤、下部にボタンが三つあるブレスレットを付けていた。服と同じく必ず付けているものだった。なぜならロボットの起動において必要になる物だからである。
今、立っているのはビル群の一画で、天気は雲一つ無い快晴と散歩でもしたくなるような環境だった。
「お嬢さん、乗りませんか?」
目の前に止まった真っ白で赤いラインの入ったバイクから、知っている声で話しかけられた。
「中原君?」
ライダーは、凪だった。見た目と不釣り合いな乗り物に乗っていることに驚くあまり、言葉が続かなかった。
「そう、僕だよ」
「あなたはいったい何者なの?」
「知らない方がいいと思うけど、とりあえず乗って」
言いながらシートの後ろを指さした。
「教えてくれるまで乗らない。それとノーヘルよ」
成実は、腕を組むと、強い口調で言い返した。
「夢の中なんだからそんな細かいこと気にしなくてもいいと思うけど、それと敵さんは待ってくれないよ」
「敵?」
凪は、返事をする代わりに背後を指さし、そちらに目を向けると、ひし形の飛行物体が多数近付いてきているのが見えた。
「早く、死にたくなければ乗って」
「分かった」
言われるままバイクに乗り、それを確認した凪がアクセルを踏むと、バイクは排気音を響かせながら通常のバイクの倍のスピードで走り出した。
飛行物体は、逃げる二人に対して、底面部から出した砲身からレーザーを発射してきた。
「攻撃してきたわよ!」
「分かっているよ!」
返事の後、バイクの後部から透明なカバーが伸びてきて、二人を完全に覆っていった。
「これでかなりマシになるだろ」
それから抜群のハンドルさばきで車体を左右に移動させて、レーザーを避けていき、左右と後方で爆発が起きまくるも、カバーで覆われているによって爆風や衝撃を感じずに済んだ。
「天野さん、手が離せないから代わりにバインマシンを呼んで!」
「コールに応答しないわ!」
成実は、左腕に付けているブレスレットの赤いボタンを押したが、画面は何も表示しなかった。
「きっと敵が妨害電波が出ているんだ」
「どうするつもり?」
「マシンに直接乗り込んで、発進指示を出すしかない。一番近いのは天野さんのバインファイターだから格納庫まで飛ばすよ」
その後、バイクは先程までのスピードからは想像も付かないほどの超高速に突入して、敵群を一気に引き離していった。
「これだけ引き離せば大丈夫かな」
バックミラーに小さく映っている敵群を見ながら言った。
「中原君、前!」
前方には敵の別動隊が待ち構えていて、一斉功撃してきた。
「曲がれる場所がないから、このまま飛び越えるよ!」
「ええ~?!」
レーザーが降り注ぐ中、バイクの後部からバーニアのノズルが飛び出し、前輪が上がるとジェット噴射して、車体を急浮上させ、敵群を飛び越え、着地するとバーニアをしまって高速走行に戻り、目標地点へ向かって激走した。
「着いたよ」
バイクが止った場所は公園だった。
「中原君はどうするの?」
「僕は、このまま走って敵を引き付けるから、その間にマシンに乗って」
「無茶はしないでよ」
「巨大ロボットに乗るのに無茶も何もないよ。ほら、敵が来た」
成実が降りたのを確認した凪は、バイクを走らせ、目の前から去っていった。
成実は、走って園内の電話BOXに入り、受話器を取らず1000、100、0と番号をプッシュし、押し終わると床が抜け、円形の通路を滑り降りて、地下格納庫へ飛び出した。
真下には、キャノピーを開いたトリコロール仕様の戦闘機が置かれていて、落下に任せるままロボットよりもやや狭いコックピットに入った。
コックピットシートに座りるなりブレスレットを外して、操作盤の差し込み口に入れると機体の電源が入り、コックピット内が小さく揺れ、計器類が点灯していく中、サブモニターを操作して他のマシンへ発進命令を出した。
命令実行完了と表示される画面を見ながらキャノピーを閉じ、真ん中のコントロールレバーを握り、フットペダルに足を乗せて、メインエンジンを点火した。
その間に正面ゲートが開いて、格納庫内に日の光が差し込んでくる中、ペダルを強く踏んでジェット噴射を最大にして、噴流を出しながら滑走路を進んで、格納庫から飛び出し、公園の外に出た。
成実の専用マシンであるバインファイターは、公園の地下に格納されているのである。
上空を飛行しながら街中を見回し、片幅四車線道路の一部が開いて中から戦車、ドーム球場から爆撃機、学校の校庭からはステルス機が発進していくのが見えた。
全機が発進したのを確認した成実は、サブモニターを操作して、自動操縦状態にある戦車とステルス機に敵を攻撃するよう指示した。
「中原君、今どこに居るの返事をして!」
凪に通信を送った。
「今は右十時の方向にあるビルの屋上を走っているよ」
言われた場所に機体を向け、前方の映像を拡大してみると、敵群に追われながらビルの屋上を走っている凪のバイクが見えた。
「どうして、そんなところを走っているの?」
「逃げている内に来てしまったんだよ。それよりも早く援護して、かなりヤバいんだ」
「今行くわ」
機体を敵群に向け、ロックオンしてトリガーを引きつつボタンを押し、機首からのマシンガンと主翼のミサイルによる同時攻撃を行い、凪から引き離していった。
一方、タンクは側面からのミサイルと上部装甲から出したキャノン砲、ステルス機はビームとバルカン砲を発射して攻撃し、敵群が反撃に出ると街は実体弾と光学兵器が飛び交い、爆音が響きまくる戦場と化した。
「僕のバインボンバーは?」
「後方から接近させているわ」
「見えたよ」
凪の頭上に接近したバインボンバーが、底面部の中心から発射したトラクタービームで、バイクを吸い込み、ビルから離れていった。
「バインフォーメーションに入ろう。バインタンクに集結だ」
「バインクラッシャーはわたしが誘導するわ」
「頼むよ」
敵群を振り払い、バインタンクに集結した三機は上昇し、バインファイターを頂点にバインクラッシャー、バインボンバー、タンクの順に縦一直線に並んだ。
「バインフォーメーションに入るわよ。準備はいい?」
「いつでも」
二人は、サブモニターにバインフォーメーションという名称を表示させ、同時にタップした。
二人の同時操作によって、四機は合体シーケンスに入り、それに合わせてサブモニターには合体過程を示す3DCGが表示された。
巨大ロボットになるべく四機は変形を開始して、タンクが両足、ボンバーは胴体、クラッシャーは両腕と胸部、ファイターが頭部になっていった。
変形が完了すると接続部から磁力光線が発射され、自動で軸合わせを行い、下から順番に合体して人型を形成していき、サブモニターでは一区画が組み合わさる度に、合体完了の文字が表示された。
頭部まで合体を終え、完全な人型に組み上がると両腕の先端から平手が飛び出し、握り拳を作った。
合体の最中、成実のコックピットシートは、機体内部に引き込まれ、停止したところで四十五度下に向きを変え、露出した巨大ロボットの両目が光るのに合わせて、モニターに映像が映し出された。
それに合わせて左右のコントロールスティックを握って操作方法を戦闘機からロボットへと切り替えていった。
「”ゴーバイン”合体完了」
凪が、サブモニターに表示された合体完了の文字を見ながらロボットの名前を口にした。
ゴーバインは全高五十メートル、色は赤青黄のトリコロール仕様、四肢が太く胸が分厚く全体的にがっしりとしたスタイルで、肩と肘が斜めに大きく張り出し、顔は人間のように目鼻立ちがはっきりしていて口があった。
敵群もまた重なるように合体し、ムカデそっくりで、ゴーバインよりも二回り大きなロボットになった。
「今回の敵ロボットはムカデか、なんか苦手だな」
凪は、嫌そうな声を出した。
「所詮は敵ロボットよ」
二人が、敵ロボットの見た目に付いて軽い議論を交わしている中、ムカデロボは口から雷のようなギザギザの形をしたレーザーを発射してきた。
ゴーバインは、助走を付けながら道路を蹴ってジャンプし、飛んでいる間に前転して、左足からの踵落としをムカデロボの脳天に叩き込み、着地するなり反動を付けて姿勢を伸ばしながら右腕を突き上げ、顎にアッパーを喰らわせて、大きく仰け反らせた。
「アイビーム、撃って!」
凪の指示を受けた成実が、スティックの赤いボタンを押すと、ゴーバインの両目が強烈な閃光を放った後に発射された真っ赤なビームは、ムカデロボを直撃して、一瞬にして表面装甲を溶かし、背中から突き抜けていった。
その攻撃に対して、ムカデロボは損傷個所をパージするなり、ゴーバインに向かって飛ばして自爆させた。
ゴーバインは、バックジャンプしたが、咄嗟の動作だった為に距離が足りず、被弾こそ回避できたものの、爆発の衝撃によって背中から倒れ、押されながら道路を削っていった。
ムカデロボは、その隙を逃さず、口からのレーザーに加え、鋭く尖っている手の先端を突き出してきた。
ゴーバインは、後転して攻撃を回避し、両足が道路に付くなり上体を起こして、バルカンと両足のミサイルの同時攻撃で、ムカデロボを牽制している隙にバックジャンプして距離を取った。
「天野さん、ゴーバインの状態は?」
「腕の装甲が半分焼け落ちている程度で、可動に問題は無いわ」
モニターに表示されている損害データを報告した。
「武器を使おう。チェーンソーマグナム出して」
「了解」
セレクトした武装名と今居る位置から一番近い発射ブロックをタップすると、発射口から大型マグナム二丁が発射され、両手で受け止め、銃口をムカデロボに向け真正面から対峙した。
「まだ撃たないで」
「どういうこと?」
凪からの言葉に戸惑いつつも、トリガーから指を離した。
「このままの位置でアイビームを発射して」
「分かったわ」
マグナムを構えたままのゴーバインがアイビームを発射すると、ムカデロボは対抗するようにレーザーを発射してきた。
二種の光線は、二体の丁度中間地点でぶつかり合い、激しい閃光と細かな粒子をまき散らした。
「天野さん、口を狙ってマグナム撃って!」
凪の指示に合わせて、口の中をロックオンしてトリガーを引き、マグナムの銃口から赤い光弾を発射させた。
弾が全弾命中すると、口内で爆発が起こって黒い煙が上がり、レーザーを撃てなくなったムカデロボは、接近しながら腕の先端を伸ばしてきた。
「僕がやるからチェーンソーモードにして」
「頼んだわよ」
成実が、トリガーから指を離した後、マグナムの上部が前方に弧を描きながら曲がって銃身を塞ぐ形で接続されると、先端部分からチェーンソー刃が突出し、名称通りの武器になった。
そうして迫ってくる尖った腕に向かって、高速回転させたチェーンソー刃を振り、激しい火花を上げながら切断していき、道路に巨大な破片を突き刺していった。
口と腕をやられたムカデロボは、ゴーバインを取り囲むように、周囲を回り始め、パージしたパーツを飛ばしては自爆させる戦法に出た。
「中原君、マグナムモードに戻して」
「了解、しっかり狙ってよ」
「任せて」
成実がトリガーを引くと、ゴーバインはその場に立ったまま、腕だけを動かして、飛んでくるパーツ全てを撃破していった。
自身の戦法が破られたムカデロボは、尖った手を一斉に伸ばしたが、ゴーバインのジャンプによって回避され、着地寸前に撃たれた弾によって、頭部を破壊されたのだった。
頭部と大半のパーツを失ったムカデロボは、丸まってダンゴムシのような巨大な玉へ変形すると高速回転し、砂埃を発生させながら向かってきて、マグナムを撃ったが全て弾かれてしまった。
「マグナムが効かないわ」
「正面がダメなら真横に回って攻撃しよう」
迫り来る玉を左横飛びでかわし、右側面にマグナムを撃とうとした瞬間、右側の手が一斉に飛び出してきて、ゴーバインは全身を刺されながら後方に吹っ飛ばされていった。
「やられたな。モニターの映像が消えているけど、何があったの?」
「メインカメラのレンズを二つとも破壊されたわ。サブカメラに切り替わったけど、映像がちょっと荒いわね」
「敵はどこ?」
「すぐ側まで来ているわ!」
成実の言葉に、マグナムをチェーンソーモードにして防御したが、玉の高速回転に耐えきれず、刃は二本共折られてしまい、押し止めようとマグナムを捨てて両腕を突き出した。
両手からは真っ赤な火花が上がり、機体を支えている両足は車線上の建物を破壊し、道路を凄まじい勢いで削って大量の土煙を上げた。
「アイビームは撃てないの?!」
「レンズをやられているせいで発射できない!」
成実は、赤いボタンを連打したが、発射不能のエラーメッセージが表示されるばかりだった。
そうしている間に回転の摩擦に耐えられなくなった両手は破壊され、千切れた指は地面に落ちていった。
「どうにかして敵から離れたいけど、今手を離すと本体も損傷してしまうな」
「そうだわ。キャタピラに乗せてゴーバインの向きを変えられないかしら」
「いい案だけど、問題はキャタピラのアームがもってくれるかどうかだね」
「破損する前になんとかするわ。それまでどうにか持ち堪えさせて」
「了解したよ」
肘裏から出したキャタピラを地面に付けると、押し出される力で本体とを繋ぐアームが激しく揺れて、千切れそうになったが、どうにか両足を乗せ、キャタピラ走行に入ることで、足の向きを変えることに成功した。
「天野さん、ノーマルハンドをパージして!」
凪の合図で、ノーマルハンドをパージした反動を利用して、機体全体を一気に左側に曲げることができ、どうにか玉から離れらることができた。
「目のリペアする?」
「それはいい。両腕をマグネットアームで、両足をパワーレッグに換装しよう。でっかい玉の後ろから出して」
「この前みたいに敵をジャンプしている間に換装するんでしょ」
「今回はちょっと趣向を変えるよ。換装作業よろしく」
「二種同時は大変だけど、やってみるわ」
迫り来る玉に対して、ゴーバインは真正面から向かって行き、後数メートルという距離になったところで、成実の読み通りジャンプしたが飛び越えず、キャタピラを回した状態で上に乗り、足場にしてもう一度ジャンプした。
「いつもと違っただろ」
「はいはい、そうですね」
成実は、空返事をしながら各パーツを発射させ、ノーマルレッグをパージして、着地する前に左右に赤と青のパーツの付いた腕、ノーマルレッグよりも一回り太い足に変形したパーツを磁力光線で引き寄せて装着させた。
「マグネットビームで敵を引き寄せて!」
凪のかけ声に合わせて、赤いボタンを押すとマグネットアームの赤いパーツが前方に迫り出し、赤いビームを玉に命中させて、ゴーバインに引き寄せ、両手に吸着させた。
回転を止められた玉は、全体を震わせて抵抗したが、動くことはできなかった。
「この状態で、ブレストブラスターは撃てる?」
「無理ね。マグネットビームは元々、出力を喰うから」
「それなら持ち上げるから、そのタイミングでマグネットアームをパージして」
「いいけど、ちゃんと持ち上げられるの?」
「もちろんさ!」
凪の返事の後、ゴーバインは自身よりも二回り大きな玉を、全身の関節を軋ませながら、頭上に持ち上げていった。
それからパワーレッグの膝裏のストッパーを道路に打ち込んで機体を固定し、各関節から軋む音を鳴らしながら玉を持ち上げて頭上に掲げた。
「天野さん、今だ!」
凪のかけ声と同時にマグネットアームを射出したが、ものが大きいだけに速度は遅く今にも落ちてきそうだった。
両足の固定を解除したゴーバインは、ジャンプして玉にサマーソルトキックを当てて空高く打ち上げた。
「ブレストブラスター準備して!」
「エネルギーチャージ開始するわ」
指示された攻撃方法をタップすると、モニターにエネルギーゲージが表示され、ゴーバインの胸部パーツが左右に開いて、その中から発射口が出てくる頃には、満タンになっていた。
玉をロックオンして左右のトリガーを同時に引くと、発射口からアイビームの何倍も太いビームが発射され、最後の悪あがきとばかりに玉が撃ってきたレーザーを掻き消しながら全身を飲み込み、破片一つ残さず消滅させた。
ゴーバインが勝ったのだ。
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