第16話 無体生命体。
成実は、シャワーを浴びていた。
これからやることの為に、体を綺麗にしておこうと思ったからだ。擦り傷にお湯が滲みたが、我慢して浴び続けた。
シャワールームから出て、下着を身に付け、傷の手当てをした。
左腕を再生した技術をつかわせてもらおうかとも思ったが、侵略者の世話になるみたいで嫌だったので、それに付いては凪にも使い方は聞かなかった。
「天野さん、準備はいい?」
着替えをして、髪が乾いた頃合いを見計らっていたように、ブレスレットから凪の声が聞こえてきた。
「準備万端よ」
返事をして部屋を出て、待っていた凪と一緒にエレベーターに乗って地上に出た。
「本当にいいんだね」
「いいわ。もう決めたもの」
「それで、ほんとにここで話ができるの?」
そこは特に目立つ建築物の無い殺風景な場所だった。
「それに付いては保障するよ。元々場所は関係無いから」
「じゃあ、始めましょうか」
成実は、緊張を和らげるように一度ゆっくりと深呼吸をした。
「それでどうすればいいの?」
「大声で夜空に呼びかけるだけでいいよ」
「侵略者~! 要求があるの!」
言われるまま、満点の星が耀く夜空に向かって叫んでみた。
「天野成実か、話は聞いているぞ。我々への要求とはなんだ?」
天上から低い男の声が聞こえてきた。
「ほんとに反応した。いったいどこにいるの? 姿を見せなさいよ!」
成実は、沸き起こる恐怖と緊張を少しでも紛らわそうと、出せるかぎりの大声で呼びかけた。
「我々に肉体といった外見は無い」
その意外過ぎる答えに成実は、返事ができなかった。凪に存在を聞かされた日からずっと宇宙人のような姿をしていると思っていたからである。
「どういうこと?」
「我々もかつては肉体を持っていたが、知識を発展させた末、肉体を持たない知識だけの生命体へと進化したのだ。それ故に宇宙全体に存在しているとも言える。造語で表現するのであれば
「体も無いのに地球を侵略する意味なんてあるの?」
要求を言う前に、疑問を解消しておくことにした。
「侵略者とは実験においての設定であり、我々が真に望んでいるのは地球の”平穏”だ」
「平穏?」
またしても意外な回答に、聞き返すことしかできなかった。
「そう平穏だ」
「人間を眠らせて仮想現実で生きていると錯覚させることが、どうして平穏に繋がるの?」
「地球の平穏を望んでいると言っただろ。人間のではない。人間は争いを繰り返し地球を汚染し続ける。だから人類を眠らせることで、地球の平穏を確立することにしたのだ」
「地球の平穏って、人類を眠らせるだけで済むわけ?」
「一年眠らせただけで、地球の汚染と温暖化の進行はかなり緩やかになった」
「そうなんだ・・・・・・・・」
現実世界で問題となっていることを言われ、思わず萎縮してしまった。
「なら、どうして眠らせるだけじゃなくて仮想現実なんて夢を見せる必要があるの? 地球の平穏が目的なんでしょ」
気を取り直して、質問内容を変えることにした。
「人類の知識に興味があるからだ。我々は知識の生き物だから人類が何を考えどう行動するのか知りたかったのだ」
「それで色々な人間を試した後、中原君を選んだのよね。巨大ロボットに興味を持ったって理由で、ただの実験台にする為に」
「その通りだ。あのような知識は我々には存在しなかったから実に興味深かかった。だから実験することにしたのだ」
声のトーンが上がり、どこか嬉しそうに話した。
「勝ち続ければ地球から出て行くって条件はほんと?」
「本当だ。地球が安定すれば去るつもりだ」
「それなら次の戦いで最終回にして。わたしはこれ以上、あんた達に介入されることに我慢できない。だから実験も終わりにして欲しいの」
自身の要求を包み隠さず、はっきりと述べた。
「勝てば去っていくとして、君らが負けた場合はどうするのだ?」
「交換条件を出そうというの?」
「君は、自分の要求が一方的に通せる立場にあると思っているのか。仮に要求を受けれ入れるとして、それでは君等で言うところのフェアじゃないな。受け入れて欲しければ我々の要求も飲んでもらおう」
「要求はなに?」
渋々ながらも、要求内容を聞くことにした。
「地球をいただこう。地球を我々の好きにさせてもらう」
「分かった。わたし達が負けたら地球を好きにしていいわ」
「君一人でそんな重大な決断を下してもいいのか?」
「ここまで戦ってきたんだもの、当然の権利よ」
成実は、強い口調で言い切った。ここで引き下がっては全てが台無しになると思ったからだ。その一方で、両足は小刻みに震え、正直な反応を露わにしていた。
「それにしてもあんた達って、ほんとに地球が欲しいのね。どうしてそこまでこだわるの?」
「この宇宙において生命体の宿る星は希少レベルだ。だから汚染されるのを黙って見ていられくなったのだ。汚染が原因で滅んだ星もあるのでね」
「そういう建前で地球に干渉したいだけでしょ」
「君らとて、他の生き物に干渉しているだろ。それと同じことだ」
「ありがちな答えだわ」
「干渉はなにもこれが初めてではない」
「どういうこと?」
「地球が誕生した時点で、我らの監視は始まり、幾度かの干渉もしてきている」
「人類を眠らせる前は、何をしてきたっていうの?」
「隕石落下に大洪水だ」
「それって、恐竜が絶滅したのも聖書に書かれていることもあんた達がやってきたことなのね」
「そうだ。全ては地球の平穏の為だ。ただ、遠い昔の人類に対して二度と滅ぼすようなことはしないと誓ったので、今回は眠らせるだけにしたのだ」
無体生命体は、同じ言葉を繰り返しつつ、自身の行動理念を明らかにした。
「神様みたいな物言いだけど、とんだ神様だわ」
成実は、おもいっきり皮肉を込めて言った。
「本当にここまで彼女に聞かせてもいいのか? 同士よ。我らの知識を教えるのは本来禁忌とされることなのだぞ」
「同士って、誰よ」
「君の側に居る中原凪は我らの同士だ」
「中原君、どういうこと?」
「聞いた通りさ。僕は彼等の同士なんだ」
凪は、当然といった口調で返事をした。
「だって、体あるじゃない。無体生命体なのにおかしいわよ」
「無体生命体に”造られた人間”なのさ」
「意味が分からないわ」
「僕は、中原凪の知識と記憶から創り出された”人造人間”なんだ。無体生命体の御使いや使徒といったところかな」
「嘘よ。そんなこと信じないわ」
「それなら、これを見て」
凪が、空中に手を翳すと光の粒子が集まり、一瞬にしてゴーバインが丸ごと一体でき上がった。
「こんな力が普通の人間に使えると思うかい?」
「神様レベルじゃない!」
「君達からすれば、そうなるね」
「じゃあ、街を直したりわたしの体を治療したのは」
「この力さ」
「これなら一瞬で直せるじゃない。どうして時間がかかったの?」
「直すって言っても、言葉で言うほど簡単じゃないよ。見てて」
目の前のゴーバインを軽く蹴ると、一瞬にして塵となって消えてしまった。
「形だけならすぐだけど、中身をちゃんと作るのには時間がかかるんだよ。特に人間の細胞は繊細だから」
「そんな力があるのならどうして戦闘中に使わなかったの? そうすれば仲間だって死なずに済んだじゃない」
「戦いの最中には使えない決まりになっているんだ。だから、仲間を救うことはできなかったんだ」
「なにが、御使いよ。無体生命体の手先じゃない!」
成実は、きつい声による罵声を浴びせた。
「当たっているけど、実際に言われるとショックだな‘~」
「そんなことよりもちゃんと説明して、もう訳が分からないよ」
成実は、頭を抱えて訴えるように言った。
「そうだね。ここまで来たんだから聞かせてあげる。僕、いや中原凪の真実を」
凪は、静かな口調で語り出した。
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