第18話 生命合体。

 その日、全ての人類が目を覚ました。


 しかし、彼等に目覚めたという意識や感覚は全く無かった。眠らされていたことさえ知らないからだ。


 その人類には、共通する記憶があった。

 内容としては、天野成実と名乗る少女が、人類は侵略者によって一年間眠らされていて、自分はその間対抗兵器である巨大ロボットで侵略者と戦い続け、これから最終決戦に臨むので、地球人の心を一つにして応援して欲しいというものであった。


 荒唐無稽な内容だったが、全員が共通の記憶を有しているだけあって、夢であると完全否定することもできず、あらゆる人種、年代、職業、役職で真剣に議論され、SNSなどでの拡散効果もあって、大いに盛り上がっていた。


 そのメッセンジャーともいえる成実は、街の中心で待機しているバインウィング装着状態のゴーバインのコックピットにて、最終決戦が始まるのを待っていた。


 「ねえ、戦いが始まるまで、後どのくらい?」

 「五、六分ってところかな」

 「それまでお話ししない?」

 「フラグになるようなことは言わないでよ」

 「フラグ?」

 「巨大ロボットアニメとかで戦いが始まる前に、この戦いが終わったらあれがしたいとかこういうことをやりたいとか言っていたキャラが死んでしまう予言みたいなものだよ」

 「その心配ならいらないわ。わたし、巨大ロボットアニメ全然見たことないから、そういうの全く気にしないし」

 きっぱりと言い切った。


 「どんな話をしようか?」

 「わたしのメッセージ、みんなに届いたよね」

 「間違いなく届いているよ。まさか仮想現実に介入してメッセージを送った後に人類を目覚めさせるとは思わなかったよ。てっきり現実世界を飛び回って何か言うと思っていたからね」

 「それだと領土問題とかでうるさくなりそうだからやめたの。その代わりに仮想現実でメッセージを伝えれば、現実か夢か判然としないから話題にはなるけど、大きな混乱は起きないと思って」

 「そこまで考えていたなんて驚きだな。将来は医者じゃなくて政治家の方がいいんじゃない」

 「普通の人生では得られない経験をたくさんしてきたからだよ。それにすっごく緊張もしているんだ。こんなに緊張したの高校での弁論大会以来かな」

 「地球の命運を背負っているんだから当然だよ。手術の時は緊張しなかったの?」

 「あの時はそこまで意識が回らなかったから」

 「なるほどね」

 「さっきから手の汗、全然引かないや」

 操縦桿から離した両手は、汗びっしょりだった。


 「映像も地球中に流れるよね」

 「小型カメラを飛ばしているから問題無いし、島一帯にフィールドバリアを展開するから、軍やマスコミのヘリが来ても巻き込まれる心配も無いよ」

 「それなら思う存分戦える」

 「最終決戦で勝つと同時に人類の価値を同士に示すって作戦だけど、ほんとにうまくいくと思っているの?」

 「分からない。けど、わたし達の戦いを見て全ての人達が応援してくれれば、人類が思いを一つにできるくらい価値のある生き物だって無体生命体に証明できる気がするんだ。そうすればもう眠らせようなんて考えも持たなくなんじゃないかって思ったんだよ」

 成実は、自分の考えを口にしていった。


 「天野さんは、本当に人間を信じているんだね」

 「わたしは、人の”善意”に救われたから。中原君は信じていないの?」

 「中原凪は、人の”悪意”で身を滅ぼしたから信じることができないのかもしれない」

 「悲しいね。けど、わたしは中原君を信じることにしたよ。中原君がドナー登録してくれたからこうして生きていられなかったから」

 「最後には人間を信じられるといいな。時間だよ」

 二人同時に、天に目を向けると、一体のロボットが降りてきた。

 

 「さあ、最終決戦の始まりだ」

 「うん」

 成実は、覚悟を決めたように、コントロールスティックを強く握りしめた。

 着地したロボットは、全身真っ黒でゴーバインそっくりだった。

 「黒いゴーバイン、どういうつもり?」

 「分からない」

 黒いゴーバインは、目を真っ赤に輝かせるなり、正面から向かってきて、パンチやキックによる接近戦を仕掛けてきた。

 

 「ドリルアームを」

 「了解!」

 ドリルアームに換装した右腕を突き出すと、黒いゴーバインは両手を胸の前で組んだ防御体勢を取ったが、ドリルに両腕ごと体を貫かれると、背中から倒れ、爆発もせず動きを停止した。

 「これで終わり?」

 あまりにもあっけない最後に拍子抜けした。

 「そんなわけないと思うけど」

 二人が話している中、天から黒いゴーバインが、次々に降りてきた。


 「チェーンマグナム、アサルトパックを出して!」

 指定された武器とアーマーの発射作業を手早く行っていった。

 ゴーバインは射出された武器を両手で受け取りながら手足、胸、肩、腰にアーマーを装着して、マッシヴなスタイルになった。

 装着作業が終了すると、チェーンマグナムから光弾を、アーマーの各部から発射したミサイルによる遠距離攻撃を行い、地上に降りる前に撃破していくも、降りてくる数の方が勝っていき、地上は黒いゴーバインで溢れていった。

 「黒ゴーバインの大群ってわけ」

 「ブラックって言って欲しいな。最終回らしい展開だね」

 妙に納得している中、ブラックゴーバインの大群は目からビームを発射してきた。

 

 「一気にやっつけよう。ブレストブラスターだ」

 凪が、バインウィングのバーニアを使って上昇しながら、攻撃を回避している間に指示を出した。

 「分かったわ。エネルギーチャージ開始!」

 チャージが完了すると、胸アーマーをパージして、ブレストブラスターを敵群目掛けて発射し、機体を右から左に動かして、草を薙ぐように多数の敵を撃破したことで、地上は大量の爆球で溢れていった。

 

 「敵の数は?」

 「全然減ってないわ」

 レーダーは、接近してくる大量の物体を示し、それを裏付けるように爆炎の中からブラックゴーバインの大群が押し寄せてくるのだった。

 「マグネットアームに換装、それからバインシールドをあるだけ出して」

 「分かったわ」

 指示されたパーツを発射して換装させ、続けて全シールドを発射し、ゴーバインが両手を突き出して、マグネティックビームで、シールドを一か所に集めて巨大な防壁にした。

 「これで少しの間は進行を防げるだろ。ギガントボムを使おう」

 「あれならいけるかもね」

 武器名をタップすると、日本の城が石垣ごと真横に移動して現れた大き目の発射口からは、ゴーバインの肩幅よりも広い大砲の弾に似た巨大爆弾が発射された。

 

 その間に、防護壁の外側からは大量の爆音が鳴り響き、数秒後には破壊された。

 「来るわよ」

 「こっちも準備OKだ」

 ゴーバインは、受け止めた爆弾を両腕で持ち上げ、ブラックゴーバインの大群目掛けて放り投げた。

 「後方に退避するよ」

 「いいわ」

 爆弾が着弾する前に、上昇して空中へ退避する中、着弾地点では大爆発が起こって、大群を飲み込んだ後、巨大なキノコ雲を上げたのだった。


 「終わったのかな」

 爆発が治まり、煙が晴れていくと、着弾地点には大きなクレーターが出来ていて、周辺には大量の残骸が散らばっていた。

 「あっさりし過ぎている。これで終わりとは思えないな」

 凪の言葉通り、ブラックゴーバインの残骸が一斉に動き出して一つの塊になった後、全身真っ黒で、凹凸が無く、丸い頭に真っ赤な一つ目を持つ、超巨大なロボットになったのだった。

 「これはかなりヤバそうだけど、みんなからの声援は?」

 「今のところ傍観一色だよ。ピンチってわけでもないし、巨大ロボットの戦いを現実のものとして受け止められないんだろうね」

 「このまま戦い続けるしかないか」

 「そういうこと」

 二人が、話している間に超巨大ロボは、その巨大な拳をゴーバインに向け、飛行して回避すると、拳は街の一角をあっさりと破壊したのだった。


 「どうやって戦うの?」

 「機動力を上げよう。アイアンライガーと合体だ」

 「了解!」

 呼び出したメカと合体し、四脚形態になって上昇し、腕の届かない範囲に後退した。

 「ブレストブラスター発射!」

 エネルギーチャージを完了させて発射すると、超巨大ロボは左手を出してきて、一部を破損させるも、すぐに再生してしまうのだった。

 

 「もう一回ギガントボムは使えないの?」

 「あんな大量破壊武器はそう何個も用意していないよ」

 「それじゃあ、声援の方は?」

 「まだ、日本だけだね。君が日本人ってことが影響しているんだと思う」

 「さっきよりは少しはマシになったってことね」

 二人が話をしている間に、超巨大ロボットの全身から目のようなものが発生し、そこから一斉にレーザーを発射してきた。

 ゴーバインは回避行動を取ったものの、避け切れず、全身にレーザーを浴び、翼と下半身は完全に破壊され、地上に落下していく途中で右手に捕えられてしまった。

 そうして両腕を握り潰されながら高く持ち上げられ、後ろに引いて反動を付けられた後、地面におもいっきり叩き付けられた。


 ゴーバインは、二、三回バウンドした後、地面を削りながら動きを止めた。

 「天野さん、生きている?」

 「とりあえず、中原君は?」

 「なんとか平気だよ」

 コックピットにもたれながら、互いの安否確認をしている最中、近付てきた超巨大ロボットが、右足をゴーバインに乗せて踏み潰してきた。

 「このままじゃやられちゃう!」

 画面が黒い足で覆われ、ゴーバインが潰されていく音を聞きながら叫んだ。

 「天野さん、脱出だ!」

 「ダメ! 装置が機能しない」

 脱出装置のレバーをいくら引いても、何の反応も無かった。

 「嘘でしょ。こんなところで終わりなの?」

 「最後まで戦おう。使える武器はある?」

 「もうアイビームしか撃てないよ」

 「それでいいよ」

 そうして、ビーム攻撃が超巨大ロボを直撃した。


 「当たったね」

 「今のわたしじゃない」

 「じゃあ、どこから」

 「あれ、見て」

 モニター後方に、一機のロボットが見えた。

 「あれって、味方のロボット?」

 「そうだよ。胸を見て」

 凪の言葉を聞いて、ロボットの胸を拡大してみると、そこには日本の国旗がマーキングされていた。

 

 「あれって、日本専用ロボット?」

 「そうだよ。日本人の声に応えて起動するロボットだ」

 日本ロボが攻撃する中、次々に他のロボットも姿を現し、胸を見ていくと他国の国旗が施されているのだった。

 「どんどん増えていく」

 「日本ロボットが起動したのを見て、他の国も声援を送るようになったんだね」

 「そうか、みんなの声が届いたんだ」

 自分の思いが叶ったことで、成実は泣きそうになった。


 その思いに応えるようにロボット群は、搭載されている武器で攻撃を行い、それによって超巨大ロボの右足はゴーバインから離れたのだった。

 「今の内に脱出だ」

 「でも、どこも動かないよ」

 そこへ二体のロボットがやってきて、ゴーバインの両肩を掴んで、超巨大ロボから引き離していった。

 「ありがとう」

 ロボット相手に思わず礼を言ってしまった。

 「ゴーバインをリペアしよう」

 「そうだね」

 スペアパーツを出して、ゴーバインをリペアさせた後、国の数だけあるロボット群の先頭に立たせた。

 

 「これが全人類の声援で起動したゴーバイン軍団だ」

 「居たのは知っていたけど、実際に見ると凄いね」

 「これだけの数、用意するの大変だったんだよ」

 「分かっているわよ。それで操作はどうなっているの?」

 「オートパイロットだけど、問題無いよ」

 「そっか、じゃあ反撃開始だね!」

 成実のかけ声に合わせて、ゴーバインがアイビームを撃つと軍団の半分が一斉にビームを撃ち、残りの半数は接近戦を仕掛けて超巨大ロボの体勢を崩していった。

 超巨大ロボットは、全身からレーザーを撃って反撃し、損傷する機体もあったが、ゴーバインと同じくリペアするなり戦線に復帰した。

 それから全機供、超巨大ロボの前に集結し、一斉にブレストブラスターを発射して上半身を破壊させるも、すぐに再生してしまうのだった。

 

 「やっぱり一気に破壊しないとダメか、こっちも合体しよう」

 「初めてだよね。うまくいくかな?」

 「僕を信じるんだろ。だったら設計も信じてよ」

 「うん、そうだね」

 「じゃあ、操作よろしく」

 成実が、画面に表示した「グレートドッキング」という名称をタップすると、ゴーバインは上昇し、それに続いた軍団はパズルピースのように変形を開始して、ゴーバインを中心に合体を重ね、超巨大ロボと同じ大きさのロボットになった。

 

 「グレートゴーバイン合体完了!」

 合体終了と同時に凪が叫んだ。

 「ほんとに合体出来たんだ」

 成実は、モニターに映る超巨大ロボと同じ目線になっていることから、合体が成功したことを確信した。

 グレートゴーバインは、ゴーバインのデザインを踏襲しつつ、両腕両足に胸部がさらに太く、額のアンテナブレードがより鋭くなり、顔にはマスクが付いているなど、似て非なるデザインだった。

 

 超巨大ロボは、真正面から向かってきて右パンチを出すと、グレートゴーバインは左手だけで受け止めて握り潰すなり、右パンチでおもいっきり顔面を殴った。

 よろけた超巨大ロボは、全身からレーザーを発射したが、グレートゴーバインは翳した左手から出した金色の膜によって、全てを無効化した。

 攻撃を防ぎ切ったグレートゴーバインは、二足走行で距離を詰め、超巨大ロボの背中に両手を回して抱えた後、全身にかかる重力をものともせず、頭上に持ち上げるなり上空へ放り投げた。

 「天野さん、グレートバインソード!」

 成実が、武器の名称をタップすると自由の女神が真横にスライドし、中から一本の巨大な剣が発射され、それを受け取ったグレートゴーバインは、両手で持って掲げた姿勢のままジェット噴射によって、上空に飛び上がった。

 そうして、超巨大ロボと同じ高さに達すると、剣から光の刃が出現し、勢いよく振り下ろして、真っ二つにした。

 グレートゴーバインが着地した後、分断された超巨大ロボットは強烈な閃光を放って大爆発し、再生も追い付かずに跡形も無く消し飛んだのだった。


 「今度こそ、終わり?」

 「これくらいで同士が地球を諦めるとは思えないな」

 その言葉を証明するように、空が黒一色で覆われ、状況も分からない中、天空から巨大で真っ黒な拳が現れ、飛行して回避すると、島を跡形も無く押し潰したのだった。

 「いったいなにが起きているの? まさか、あんな巨大な敵と戦えってこと?」

 「そのまさかみたいだね。とにかく宇宙へ行こう」

 背中だけでなく足底のジェットを噴射させて、地球から飛び出し、宇宙に出ると、そこには地球と同じ大きさの真っ黒な球が浮かんでいた。

 「あれが敵?」

 「きっと、最後の敵だね」

 その言葉を示すように球は変形を開始し、地球よりも巨大なロボットになった。

 

 「あれと戦えっていうの?」

 成実は、唖然とした口調で言った。あまりのスケールの大きさに、恐怖や絶望といった感情が追い付かなかったのだ。

 「そうみたいだ」

 「無茶が過ぎるわ。無体生命体はなんの知識からこんなものを造ったのよ」

 成実は、落胆の言葉を口にした。

 「でも、これに勝たないことには、地球は同士のものになってしまうんだから、やるしかないよ」

 「・・・・・・・そうね」

 グレートゴーバインの全武装を使ったが、当然のごとく一切ダメージを与えることはできなかった。

 そうして惑星ロボットの一撃によって、あっさりと地球に落とされ、大気圏を抜けた辺りで合体が解け、ゴーバインと軍団の残骸は海に落ちていった。

 

 「天野さん、生きている?」

 超巨大ロボにやられた時のように、凪が安否確認を行った。

 「生きているけど、今度こそおしまいなのかな? わたしは終わりたくないよ」

 くやしさを口に出した。

 「人類全員が願ってこれじゃあ、お手上げかな。ゴーバインももう動かないし、天野さんの方は?」

 「わたしも一緒」

 スティックをいくら動かしても、ゴーバインは反応しなかった。

 「そうか」

 「他に何かないの?」

 「何も考えられないよ。何も・・・・・・・・・・・・・・・」

 凪が低い声で答える中、海中からでも空が暗くなっていくのが見えた。


 「ほんとに終わりなの? これじゃあ、なんの為に戦ってきたのか分からないよ」

 成実の目から涙が溢れる中、画面に一匹の魚が見えた。

 その後、魚の数は種類を問わずに増えていき、画面全体を覆うほどになっていった。

 「なんで魚が集まってくるの?」

 「魚だけじゃないみたいだよ。周りを見て」

 その言葉に画面を見ていくと、カニやイソギンチャクといった海洋生物もゴーバインに集まってきて、その後はサメ、イルカ、クジラといった大型の生き物までもやってきた。

 

 「これはいったいどういうこと?」

 画面越しに溢れる生き物を見ながら言った。

 「人間以外の生物が答えているんだ」

 凪が返事をした後、地鳴りが起こった。

 「この揺れは?」

 「きっと”地球そのもの”が僕達に答えているんだ」

 「地球にも命が宿っているんだね。人間以外の生物のことを考えていないなんて、わたしも無体生命体とあんまり変わらないや」

 成実は、涙を流しながら言った。

 「それは僕も同じだよ」

 「これでなんとかなる?」

 「僕の全ての力を使ってどうにかするよ」

 凪の全身から光が発せられ、成実を飲み込み、ゴーバインから溢れ出て、海を大地を空を覆い、地球全体を包んでいった。


 そうして地球そのものが光の球と化し、卵のような形になり、光の膜が払われていくと白鳥のような翼が現れ、ゆっくりと開かれた翼の中から空や海のような青をメインカラーにしたゴーバインともグレートゴーバインともデザインの異なる一機の巨大ロボットが姿を現した。


 凪の力によって、地球自体が巨大ロボットになったのである。


 「ここは・・・・・・・・」

 意識を取り戻した成実が目しているのは、宇宙と惑星ロボだった。

 「いったい、何が起こったの? わたし、どうしちゃったの?」

 自身の状況を確認すると、コックピットシートではなく、銀色の円盤の上に立っていた。

 「僕の力で、地球そのものを巨大ロボットにしたんだ」

 どこからか凪の声が聞こえてきた。

 「地球そのものが巨大ロボット? 中原君はどうしているの?」

 「僕は今、ロボットの心臓部になっているんだ。こんなことをするなんて造られた時には夢にも思わなかったよ」

 「地球ってことはみんなが巨大ロボットの中に居るってこと?」

 「そうだよ。人類だけじゃない。動物も植物もだよ」

 その言葉を示すように、周囲には人間から動物、魚に虫に植物など地球に存在する全ての動植物の存在を感じることができた。

 

 「でも、時間を掛けないとちゃんとした物にならいんじゃないの? 中原君自身も言っていたじゃない」

 「大丈夫、僕が常に力を供給して内部構成を行っているから」

 「どんなデザインをしているの?」

 疑問に思っていることを口にした。

 「書きかけだったゴーバインの最終形態を元にしているよ。これでようやく完成だ」

 凪は、心から嬉しそうな声で言った。

 「それで名前は?」

 「そうだね。地球と合体したんだからアースバインでいこう。生命合体アースバインだ!」

 こうして、地球が変形したロボットは、アースバインという正式名称を得たのだった。

 

 「ふふふ、あははははっ! なんという予想外の展開だ! このような事態に直面したのは進化以来初めてだ!」

 惑星ロボから、興奮しきった声が発せられた。

 「なんなの?」

 「同士にとっては久々の知覚的刺激だったから興奮しているんだろうね。なにせ、何千年振りのことだから」

 「さあ、その力、我らに存分に見せてくれ!」

 惑星ロボは、ファイティングポーズを取って、兆発してきた。

 

 「天野さん、操作方法は分かっているよね?」

 「大丈夫、わたしの動きに合わせて動くんでしょ」

 成実が、両腕を上げて指を動かすと、画面には同じ動きをするアースバインの両腕が見えた。

 「上出来だ」

 「みんな、いくよ!」

 成実のかけ声に合わせてファイティングポーズを取ったアースバインは、惑星ロボに向かって行き、二体は同時に右拳を突き出し、ぶつけ合った。

 惑星ロボの拳は空間を歪ませるほどの衝撃をもって砕け、体勢を崩している隙に、アースバインはキックを脇腹にかましてダメージを与えていった。


 アースバインは、巨大ロボットの形を取ってはいるが、その挙動は豪風のように猛々しく、繰り出される一挙手一投足は荒波のように荒々しく、機体から溢れ出るパワーは吹き出すマグマのようであり、鋼で構成されている顔は、激情を顕にするように攻撃を出す度に口を大きく開けていた。

 

 惑星ロボは、手を武器に変えて対抗したが、全てアースバインの拳と足によって砕かれ、首根っこを掴まれ

 「よくも好き勝手やってくれたわね~!」という成実の叫び声と供に放り投げられた。

 惑星ロボは、動きを止めると、全身からレーザーを発射した。

 「アースシールド!」

 アースバインが両手を突き出すと、手の平から水色の光の膜が発生してレーザーを粒子レベルで分解していった。

 「今度はこっちの番よ! アーストルネード!」

 アースバインは、全身を翼で覆い、先端を尖らせ、高速回転しながら突撃していった。

 惑星ロボは、バリアを前面に展開したが防ぎ切れず、腹部中央を貫かれるも再生するなり胸部を開き、中から真っ黒なレーザーを発射した。

 

 「みんな、準備はいい?」

 成実の問いに、凪を含む全生命体が賛同した。

 「ブレストアースインパクト~!」

 成実の叫びに合わせて、アースバインの胸部から極太でどこまで青いビームが発射された。

 二つの光学攻撃は、二体の中間地点でぶつかり合った。

 「何故だ? 何故ここまで我らに抗うことができる?!」

 「知識だけの頭でっかちのあんた達には分からないでしょうね。これが肉体を持って生きるみんなの力よ!」

 成実の言葉に呼応するようにブレストアースインパクトが、黒いレーザーを押し始めた。


 「これがわたしの地球の命の力だ~!」

 その叫びに、ブレストアースインパクトは倍以上の太さになり、黒いレーザーを完全に圧倒し、惑星ロボの全身にビームを浴びせ、跡形も無く消滅させたのだった。

 

 戦いが終わると、アースバインは地球の軌道に戻り、翼で全身を包んだ後、元の惑星へと戻った。

 そうすると、全ての生き物も元の場所に戻っていて、さっきまでの一連の出来事が夢だったのかと思わせたが、全員に戦いの記憶と感覚がしっかりと刻まれていた。

 

 「天野さん、天野さん」

 「ここは、どこ?」

 凪の呼びかけで、目を覚ました成実が周囲を見回すとコックピットシートに座っていて、モニターの映像には海が映し出されていた。

 「今、再生させたゴーバインで海から上がるところだよ」

 「わたし達、勝ったんだよね?」

 「ああ、大勝利だ」

 海から上がったゴーバインは、陸地に足を付けると、コックピットから出てきた二人に手を差し伸べ、砂浜に降ろしていった。

 「君達の意思、確かに感じさせてもらった。約束通り、地球への干渉はやめよう。地球は君達、人類に任せる」

 無体生命体からの言葉だった。

 

 その言葉の後、ゴーバインは光の粒となって消え始めた。

 「ゴーバインが消えていく」

 「無体生命体がこの星を去る証だよ。同士の力が無くなる以上、地球に居られるのは、この星に住む者達だけになるから消滅するんだ」

 言っている凪自身も薄れ始めていた。

 「中原君も帰るんだね」

 「僕は、ゴーバインと同じくこのまま消えるよ」

 「どういうこと? だって、無体生命体の同士なんでしょ」

 「戦いの中で力を使った罰さ。禁忌を犯したから同士の元への帰還は許されず、このまま消えてしまうんだ」

 「中原君、居なくなっちゃうの。地球の為に戦ったのに、こんなのってないよ!」

 成実は、両目に涙を滲ませていた。

 

 「そんな顔しないで、前にも言っただろ。僕はこの世界ではもう死んでいる人間なんだ。だから、これでいいんだよ。大好きな巨大ロボットに乗って地球を救えたし、悔いは無いよ。それに本当の僕はそこに居るから」

 凪は、成実の心臓を指さした。

 「そうだね。中原君はここで生きているんだよね。死んでなんかいないよね」

 「いつまでも君を見守っているよ。ちょっと、キモかったかな」 

 「ちょっとどころじゃないよ」

 「ありがとう」

 凪は微笑んでいた。それは、これで見た中で最高の笑顔だった。

 「うん」

 成実の返事の後、凪は消えていった。


 そうして一人切りになった成実は、膝を付いて大泣きした。

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