第7話 怪獣。

 成実は街に居た。ゴーバインに乗って戦う舞台だ。


 目の前には凪が居た。今は見晴らしのいいカフェテラスで、夕日を背景に向かい合わせに座っているのた。


 「これ、どういうシチュエーションなの?」

 「素敵なカフェテラスで夕日を見ながらのデートってところかな」

 「デートねえ。まあ、男の子とデートするの初めてじゃないから緊張なんかしないけど」

 「彼氏、居るんだ」

 「三年になる直前に別れたわよ。彼とは手つなぎ、ハグ、ファーストキスまであげたわ」

 「なんで、別れたの?」

 「彼が引っ越すことになったの。遠距離恋愛も考えたけど、そうなると医者の勉強もおろそかになるし、スマホだけのやり取りも嫌だったからわたしから終わりにしようって持ちかけたの。彼もその理由に納得してくれたわ。中原君は女の子とデートしたことある?」

 「無いけど」

 やや自信の無い返事だった。

 

 「そうよね。超が付くほどのロボットヲタクだもんね。現実の女の子に興味あるの?」

 「あるよ。好きな子も居たし」

 「どんな子?」

 「天野さんよりも可愛いよ」

 「何よ、それ? だったらその子をパイロットに選べば良かったじゃない。どうしてわたしなわけ?」

 成実は、声に怒気を込めた。当然の反応である。

 

 「それにはちゃんととした理由があるんだよ。それにしても今日は色々とを話すんだね」

 「戦いに勝ったら色々と教えてもらうつもりだけど、それだとフェアじゃないからわたしのことも色々と教えておこうと思っただけ。約束忘れないでよ」

 「安心して、ちゃんと覚えているから」

 二人が、会話をしている中、前方に見える海から大きな水しぶきが起こり、その中から巨大な生き物が姿を現した。


 生き物は肉食恐竜のような体格で、背中には突き出した岩のような棘が無数に生えていて、鋭い牙を生やした口を大きく開け、見た目に相応しい唸り声を上げた。

 その声は、テラスのテーブルがひっくり返るほどの強風と耳を塞がなければならいほどの雑音を二人に与えた。

 鳴き終えた怪獣は、足をゆっくり動かして上陸し、巨体に見合った足音を鳴り響かせ、目の前の建物を踏み破壊しながら、二人の方へ近付いて来た。


 「なによ、あれ、怪獣じゃない」

 「相手が巨大ロボットばかりとは限らないさ。バインマシンを呼ぼう」

 「前の時みたいに妨害電波とか出ていない?」

 「ブレスレットでコールしみれば分かるさ」 

 「そうね」

 成実と凪が、腕に装着しているブレスレットの赤いボタンを押すと、コールに応じたバインマシンが格納庫から発進していった。

 

 接近してきた専用マシンを二人は頭上で待機させ、トラクタービームを出して吸引させることで、機体に乗り込んでいった。

 「すぐに合体しよう」

 「賛成」

 バインタンクの元に集結して、縦一直線に並んだバインマシンは、バインフォーメーションに入り、変形を開始した。

 そこへ翼竜に似た怪獣が空から現れ、口からリング状のレーザーを吐き出し、直撃を受けたバインマシンは、別々の方向に弾かれ、地上に落下して、建物に激突していった。


 「天野さん、大丈夫?」

 「こっちは大丈夫、機体のダメージも軽症よ」

 画面に表示されている機体状況を報告した。

 「僕の方もだ」

 「それよりもさっきのは何?」

 「妨害光線ってところかな。マシンを出させる反面、簡単に合体させてくれないみたいだ」

 「まずはあいつをなんとかしないと」

 「そうだね。集中攻撃してダメージを与えて怯んだ隙に合体しよう」

 「了解」

 タンク以外のマシンが、翼竜に向かって上昇する中、地上に居る怪獣が口から熱線を吐き出してきた。

 

 「あの怪獣も口からレーザーを出せるの?」

 成実が、熱線をギリギリの距離で回避しながら言った。

 「ああいう怪獣のお約束だね」

 「感心している場合じゃないでしょ」

 翼竜は、向かって来るバインマシンに対して、翼を大きく羽ばたかせることで発生させたソニックブームで吹き飛ばした。

 機体が回転しながら落下していく中、成実はレバーを強く引き戻すことで、地上への激突をすれすれのところで回避することに成功した。

 

 「中原君、大丈夫?」

 「なんとか激突は避けられたよ」

 「ねえ、ゴーバインって合体途中のままでも戦えるよね」

 「できるけど、その分パワーは低下してしまうよ」

 「奴等を分散できればいいんだから構わないわ。半々の合体なら時間も掛からないし」

 「二機合体じゃ出力不足だよ。ボンバーとも合体して。僕はタンクに乗り換えて地上の怪獣を引き付けるから翼竜の方は頼んだよ」

 「任せて」

 成実の返事を聞いた凪は、ボンバーを地上ギリギリに降下させ、コックピットユニットでもあるバイクを分離して、道路を走ってタンクの後部ハッチからコックピットに乗り移った。

 

 成実は、無人のバインマシンのコントロールをバインファイターとリンクさせ、翼竜に対して、銃火器による集中攻撃を行ったが、戦闘機状態での武器では威力が弱いらしく、効果はほとんど得られなかった。

 「やっぱり合体しないとダメみたいね。どこかいい隠れ場所は無いかしら」

 成実は、街中を飛んで合体できる場所を探したが、すぐに翼竜に追い付かれて攻撃されてしまう為に、絶好の場所を見つけることができなかった。

 「そうだわ。あそこなら!」

 成実は、機体の向きを変え、二機を引き連れて海中へ突入した。

 

 翼竜は、空中で滞空し、海に向かってリングレーザーを吐き出し、猛烈な水しぶきを上げながら海面が円盤状に割れていって、海底を露出させたが、バインマシンはどこにも見当たらなかった。

 

 その後すぐ別の海面から二筋のビームが飛び出してきて、翼竜が避けた後、上半身だけのゴーバインが、海中から飛び出してきた。

 翼竜は、体勢を立て直すなり、リングレーザーで反撃してきて、上半身だけのゴーバインは、レーザーをギリギリの距離で回避した。

 「やっぱり、半人型だと操縦もバインファイターみたいにはいかないわね」

 成実は、初めての半人型の操縦に悪戦苦闘していた。

 

 翼竜は、その隙を逃さないように、リングレーザーとソニックブームを交互に使いながら攻撃してきた。

 成実も、アイビームとハンディバルカンといった使える武器で攻撃したが、空中での機動力が勝っている翼竜にあっさり回避されてしまうのだった。

 

 「どうにかして、近づかないと・・・・・この手でいってみようかしら」

 成実は、ゴーバインを街中にある一番高いビルの屋上に着陸させて、ノーマルアームをパージして翼竜に向かって飛ばしたが、あっさり回避されてしまった。


 「ここからが腕の見せどころね」

 ノーマルアームを遠隔操作して、翼竜の背後に回して尻尾を掴ませ、振り離そうともがいている隙にビルから飛び立って距離を詰めて、アームを再装着した後、パワーを最大出力にして振り回し、海に向かって放り投げた。

 翼竜は、抵抗する間もなく、大きな水柱を上げながら海に沈んでいった。

 「中原君、大丈夫かな?」

 成実は、凪の元へ急行した。

 

 その頃、バインタンクは一定の距離を保ちながら怪獣と戦闘を行っていたが、徐々に距離を詰められ、目と鼻の先まで迫られると激突を避けるように、大通りのある左側に急速ターンした。

 怪獣は、顔の向きを変えると熱線を吐き出し、タンクは側面から出したミサイルランチャーからミサイルを発射して対抗したが、通じるわけもなく、猛烈な熱量を帯びた光線が、射線上の建物を破壊しながら迫ってきた。

 

 「危ない!」

 成実が、上半身だけのゴーバインを体当たりさせることで怪獣をよろけさせ、それによって熱線の方向が曲がり、バインタンクの近くを掠めていった。

 「天野さん、助かったよ」

 「合体よ!」

 「分かっている」

 合流した二機は合体シーケンスに入り、上半身が上昇している間に、バインタンクが下半身に変形し、磁力光線を出して、自動で軸合わせを行ながら引き寄せ合うことで、ゴーバインに合体した。


 合体が完了すると、瓦礫の中から姿を見せた怪獣が、唸り声を上げながら向かってきた。

 ゴーバインは、二足走行で真正面から向かっていき、怪獣が口から熱線を吐き出すと両足を水平に上げて、つま先を前に出した低姿勢を取って回避した後、膝裏から出したキャタピラによる高速走行を行い、猛スピードに乗せたダブルキックを怪獣の両足に直撃させた。

 

 その攻撃によって、前のめりに倒れかかった怪獣の首を両腕で受け止め、キャタピラをしまいながら両足を腹に乗せ、背負い投げの要領で放り投げ、巨体の激突した大地からは土煙と激震が発生した。

 「スパイクシールドとバインジャベリンを出して!」

 「了解」

 成実が、名前をタップすると、近くの発射口から前面に鋭い棘の付いた盾と三又の矛が発射され、武器を右手に防具を左手に持った。


 そうして立ち上がった怪獣に二足走行で向かっていき、口から吐き出される熱線を前面に出したシールドで受け止めながら距離を詰め、熱量に耐え切れず溶けていく盾を足場にジャンプして、ジャベリンを真下に向けて突き出した。

 怪獣は、熱線を吐くのを止め、体を丸めるように背中の棘を突き出しきて、それに当たったジャベリンは激音と共に先端が折れ、回転しながら道路に突き刺さった。

 

 着地したゴーバインは、猛烈な勢いで迫ってくる怪獣に対して、手に残っているジャベリンの柄を逆手にして振ったが、牙で受け止められて、あっさりと折られてしまい、武器を捨てて右ストレートパンチで顔面を打った。

 パンチは顔面にヒットしたが、敵ロボットを殴った時のような硬質な音が鳴った。

 それだけ怪獣の表皮が硬いということだろう。

 パンチが効かないと判断した凪は、ゴーバインの足裏にキャタピラを乗せ、回転させた状態でキックを打った。

 回転したキャタピラは表皮を削って紫色の血を周囲に飛び散らせたが、それでも怯むことなく進んできて、伸ばされた両腕に肩を掴まれ、真正面から組み合う形になった。

 

 怪獣が、口を開けて熱線を吐き出そうとしてきたが、それよりも早く口の中目掛けてアイビームを発射した。

 光線同士のぶつかり合いによって、口内で爆発が発生し、怪獣は悲痛な叫び声を上げたのだった。

 「これですぐには熱線も吐けないだろ」

 「中原君、後ろから敵が来るわ!」

 成実がレーダーを見ると、海から出てきた翼竜が、背後に迫りつつあった。

 

 「天野さん、頼む!」

 「分かった! そっちは任せたわよ」

 成実は、ゴーバインの顔を真後ろに向かせるなり、アイビームを連射して、翼竜を近付けないようにした。

 翼竜は、ビームを回避しながら尻尾を首に巻き付け、後ろを向くなり強大な力で引きずり、急旋回すると猛スピードで引っ張っていき、それを待っていたかのように怪獣は背中を向けるなり、両足で地面を蹴って飛び出し、ゴーバインの腹部に棘を直撃させた。

 強烈な攻撃を受けたゴーバインは、物凄い勢いでビル群へ突っ込み、自身で倒壊させた建物に埋もれていった。


 「機体の状態は?」

 「本体は動くけど、胸部と腹部の装甲は損傷が激しいからリペアしないとダメね」

 「分かった。一番近い発射口は?」

 「この真下のMブロックよ。運が良かったみたい」

 「そうかもね。装甲のスペアパーツとバインハンマーを二本射出して」

 「分かった。そのリペアの間敵を近付けさせないようにして」

 「了解だよ」

 中腰状態になったゴーバインの両足側面からミサイルが発射され、怪獣二匹の目の前まで飛んで爆発ではなく、強烈な光を放って視界を一時的に遮った。

 

 その間に成実は、画面に表示させたリペアをタップすると、破損パーツのパージが開始され、パーツが音を立てながら地面に落ちていき、パージ終わると内部機構が露出した。

 それから発射されてくるスペアパーツを磁力光線で装着させ、最後のパーツを装着するとリペア完了の文字が表示されると、武器名をタップして、飛び出したバインハンマーをゴーバインの両手で受け取らせた。

 

 リペアを終えたゴーバインは、立ち上がって鋼鉄で出来た鋭い棘だらけの鉄球の固さを見せつけるように地面に叩き付けて轟音を鳴らした後、振り回しながら二匹に攻め込んでいった。

 その猛攻に翼竜は上空へ逃れ、怪獣は熱線を吐いてきて、ゴーバインは、右ハンマーを扇風機並みの残像ができるほど高速回転させることで、熱線を打ち消した。

 

 「天野さん、一旦右手のコントロールを預けるから、このまま回転させていて」

 「いいけど、中原君はどうするの?」

 「飛んでいる奴をどうにかするのさ」

 「いいわ。ちゃんと成功させてね」

 「当然だよ」

 レーザーを消し続けているゴーバインの背後に翼竜が迫ってきた。

 

 「これでも喰らえ!」

 左手のハンマーを振って、翼竜の首に鎖を巻き付け、勢いを付けて反対側に振って、怪獣と激突させた。

 「ブレストブラスター撃って!」

 二体が重なって倒れたところで、エネルギーチャージの後ブレストブラスターを発射したが、すぐに止まってしまった。

 

 「どうしたの?」

 「さっきの受けたダメージでエネルギーチャージ用のパイプが破損していたみたいで、焼き切れてしまったわ」

 「今のでトドメをさせているといいんだけど」

 その言葉を裏付けるように怪獣は頭部を破壊されて死んでいたが、翼竜は体半分の状態で生きていて、見た目以上に口を大きく開け、死骸を丸ごと食べると損傷個所が肥大して体を形成し、二体を合わせたような姿になった。


 「なんか気色悪いんだけど」

 「僕もそう思う」

 二人の意見が一致したところで、合体獣はソニックブームを引き起こしてゴーバインを怯ませた後、口からリングレーザーを撃ってきた。

 

 後方にジャンプしながら左右のハンマーを振ったが、合体獣は翼を広げて舞い上がり、攻撃を回避しながら急接近してきて、両足の爪を肩に喰い込ませるなり急上昇した。

 「反撃できないの?!」

 「肩を掴まれているせいで腕を上げらないんだ」

 「だったら、ビームで焼き切るわ」

 ゴーバインの両目が光った瞬間、翼竜は足を離して落下させた。

 

 「バインウィングとアサルトアームを出して!」

 「分かったわ!」

 凪の指示を受けて、表示させた名前をタップしていくと、街の端に描かれているナスカの地上絵の一部が開いて、中から巨大な黄色い翼を持つステルス機が飛び出し、街中からはアサルトアームと両肩のスペアパーツが発射された。

 

 バインウィングの接近に合わせて、ゴーバインが背面の装甲を開けて接続部を露出しながら発射した磁力光線によって、底面部装甲を展開して接続部を出したウィングを引き寄せて合体した。

 それからウィングの上部装甲がせり上がり、下方からバーニアのノズルが飛び出すなりジェット噴射を行って、機体を減速させ、街すれすれの距離で停止させた。

 機体が安定したところで、肩ごと両腕をパージしてスペアパーツ、機関砲とミサイルランチャーの付いたアサルトアームの順にリペアと換装を行った。


 「危ないところだったわね」

 成実は、ほっと胸を撫で下ろしていた。

 「これで条件は五部五部、反撃開始だ!」

 翼と共に飛行能力を獲得したゴーバインは、上空に居る敵に向かってジェット噴射を最大にして上昇し、合体獣は逆に降下してきた。

 翼を持つ鋼の巨人と巨大な生物は、互いの飛び道具を撃ち合いながらの激しい空中戦を行い、周囲の雲を跡形も無く散らしていった。

 

 そうした激戦が繰り広げる中、二体の光線攻撃がぶつかり合い、両者の間で光の衝突が起こった。

 押し合いが続く中、合体獣の腹が割れて大きな口になり、そこから怪獣が出していたの同じ色の熱線が発射され、ゴーバインの両足を焼き尽くした。

 「くそっ!」

 ゴーバインは、アイビームを撃つのを止め、街へ向かって急下降していった。

 

 「どうするの?」

 「ドリルレッグと換装する。街へ接近するのに合わせて発射して」

 「やってみる」

 ゴーバインが下降している中、合体獣は同じスピードで追ってきて、街のギリギリの距離で機体の向きを一気に変えて急上昇させることで激突を回避する一方、合体獣は街へ大激突して、怪獣の倍以上の土煙と激震を発生させた。

 「発射して!」

 凪の合図に合わせて、発射されたドリルレッグと換装を終えたゴーバインは、そのまま上昇していった。

 

 立ち上がった合体獣は、ゴーバインを追うように上昇した。

 「ダブルドリルキックでトドメだ」

 成実の画面操作の後、ゴーバインは足底から出した二つのドリルを組み合わせ、急降下しながらゴーバインそのものを高速回転させて突撃し、合体獣が口と腹から発射される熱線はドリルの高速回転によって掻き消し、腹部を貫いて上下に分断させた。

 その後、二度と再生できないようにアサルトアームと本体に内蔵されている武器の一斉射撃によって、破片一つ残さず撃ち消したのだった。


 「さあ、約束通り、全てを話して」

 戦闘が終わり、ゴーバインに乗ったままの成実が、凪に言った。

 「基地に降りたら全部話すよ」

 「約束が違うじゃない。今話してよ」

 「分かった」

 凪は、一旦言葉を切った後

 「ここが現実なんだ」と言った。

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