第11話 騎士。

  「丁度いいタイミングで、やってきたじゃない」

 成実は、意気揚々としたどこか狂気を帯びた声で言った。

 「ほんとに大丈夫?」

 凪が、心配そうに聞いてきた。

 「もちろんよ。なんの問題もないわ」

 「分かった。バインマシンを呼ぼう」

 「わたし、ブレスレット持ってきていない」

 「大丈夫、ここにあるから」

 凪は、成実のブレスレットを差し出した。

 「ありがとう」

 受け取って、右腕に巻いた。

 

 「あれ、左腕じゃないの?」

 「包帯巻いているから」

 成実は、服の左袖を捲って見せた。そこには、自宅で付けた傷を覆う為の包帯が巻かれていた。

 「そういうことか」

 「早く呼びましょう」

 二人同時にブレスレットでコールし、専用バインマシンを呼び、浜辺に着陸させて乗り込んでいった。

 それから他のマシンが到着して海辺で合体し、その場からジャンプして、大きな水しぶきを上げながら街に入ったのだった。

 

 轟音を鳴り響かせ、降下地点の建物を破壊しながら着地すると、西洋の甲冑と鋭い角の付いた兜に巨大な盾を持った騎士、額にドリルの付いている馬、硬質な翼を持つ鷲と計三体の敵ロボットが待ち構えていた。

 

 真っ先に攻め込んできたのは騎士ロボで、二足走行で向かってきながら腰から抜いた剣を勢いを付けて振り下ろし、ゴーバインがバックジャンプで避けると刃はビル群を切断し、武器の大きさからは想像できないほどに滑らかな切り口を露わにした。

 「ハンディバルカン撃って!」

 凪の指示で、バルカンを撃ったが、前面に出した盾によって防がれてしまった。

 

 その間にドリルを回転させた馬ロボが後方から迫ってきて、右横飛びによって回避したが、馬ロボは急停止するなり後ろ足を突き出してきた。

 敵の不意打ちともいえる攻撃に回避も防御も間に合わず、ダブルキックを胸部へ喰らい、後方に蹴り飛ばされてしまった。

 地面に激突した後、数十メートルに渡って地面を転がされ、右手を地面に突き刺すことで、どうにか回転を抑えて機体を立て直したところへ、上空に居る鷹ロボが急降下してきた。

 アイビームを撃って応戦するも、鷹ロボは翼で全身を覆い弾丸のような収縮形態を取ってビームを回避しながら迫ってきて、両手で防御するも予想以上の衝撃によって、背中から倒された。


 「中原君、大丈夫?」

 「僕は平気だよ。腕の状態は?」

 「大丈夫、戦闘に問題無いわ」

 画面に表示されている機体データを読み上げていった。

 「武器で戦おう。チェーンソーマグナムを頼む」

 「了解」

 武器名とブロックをタップして、近くの発射口から発射させた。

 ゴーバインが武器を受け取ろうとした直後、急接近してきた馬ロボがチェーンソーマグナムを前足で蹴り飛ばし、鷹ロボが閉じる前の発射口へ向けて翼からミサイルを発射した。

 ミサイルは全弾、発射口に入って大爆発を起こし、真っ黒な煙を上げた。

 

 「これはいったいどういうこと?」

 「僕等が武器を使えないようにしているんだね」

 「それでどうやって戦うの?」

 「さすがにゴーバインでも三対一はきついから、こっちも三体で戦うまでだよ。バインウィングとアイアンライガーを出して」

 「それはいい考えね」

 指示された名称をタップしていくとバインウィングが発進し、同じタイミングで街中にあるスフィンクスが後方にスライドし、中からライオン型の巨大ロボットが現れ、本物のライオンのように鳴き声を上げ、ウィングと一緒にゴーバインの元に向かった。

 「二機を自動操縦にして、ウィングを鷹にライガーを馬と戦わせるようにセットして」

 「了解」

 二機に目標の指示を送ると、バインウィングは鷹ロボと空中戦を、ライガーは馬ロボと地上戦を開始した。


 「僕等はこいつの相手をしよう。エレキアームに換装して」

 「この状況なら、武器や腕の射出に換装も問題無いわね」

 指示されたアームが発射れる中、騎士ロボが換装を妨害しようと攻撃を仕掛けてきたが、凪がゴーバインに回避行動を取らせている間に、成実は両腕を肩ごとパージして、変形を終えたエレキアームとの換装作業を完了させた。

 ゴーバインが、エレキアームを後ろへ引き絞ると、右肩に五つあるヒューズに似たパーツに電流が発生し、コイルを巻いたような腕を通して右手に流れ、電気の塊と化して青白い輝きを放つ鉄拳を騎士ロボに突き出した。

 

 騎士ロボは、盾を前面に構えて防御したものの、拳が直撃したことで発生する電撃によって押し出された。

 「さすがに電撃には耐えられないだろ」

 その後、反撃の隙を与えず、連続して電流溢れる拳を叩き込み、盾にヒビが入ってきたのを視認すると、ダブルパンチを打って完全に破壊し、その際の衝撃によって騎士ロボを後方に倒した。

 

 「これでもう防御はできないわね」

 「あの盾は厄介だからね。バイントマホークを出して」

 近くの発射口から発射されたゴーバインよりも長く幅広の戦斧を受け取り両手で持って、地面を蹴ってジャンプしながら大きく振りかぶり、眼下に捉えた騎士ロボ目掛けて勢いよく振り下ろした。

 体勢を立て直した騎士ロボがバックジャンプしたことで、的を外した巨大な刃はビル群を叩き潰しながら地面に深く食い込んで、大量の粉塵を噴き上げた。


 大きく距離を取った騎士ロボが、剣を両手で持って振りかぶると、刃から真っ赤な炎が噴き出した。

 そうして、その刃を地面に叩き付けると、前方に扇状に広がる炎の波となって押し寄せ、周辺を紅蓮の炎で染め上げていった。

 ゴーバインは、その場から動かず、トマホークを横軸にフルスイングすることで発生させた猛烈な風によって、炎の波を掻き割り自身の左右に逃がした。

 その後、両腕から電気を放射して武器に流し、電流みなぎる戦斧にして、騎士ロボに真正面から向かって行った。

 雷と炎という自然現象を宿した武器が激しく交差してかち合う度に飛び散る青と赤の欠片が、周辺に大きな破壊をもたらした。


 「天野さん、自動操縦で戦闘している二機の状態はどう?」

 凪が、戦況を聞いてきた。

 「アイアンライガーは損傷軽微で健闘しているけど、バインウィングはダメージが大きいわね」

 モニターに表示されている情報を報告していく中、サブウィンドウが開いて右主翼から真っ黒な煙を上げながら落下していくバインウィングの映像を映した。

 「柔軟に動く鷹にステルス機じゃ不利か」

 「このままじゃ、また劣勢になるわよ」

 「それなら、鷹だけでもなんとかしよう」

 「どうするの?」

 「僕にいい考えがある」

 凪は、ゴーバインを墜落したバインウィングに向かわせ、左主翼を掴むなり、騎士ロボに直進し、炎の剣を振るタイミングに合わせてジャンプして頭を踏み台にして、さらに高く跳躍した。

 

 「敵のロボットを踏み台にしたの?」

 「使えそうなものは有効活用しないとね」

 上昇したゴーバインに向かってくる鷹ロボに対して、バインウィングをブーメランの要領で投げつけるも回避して迫ってきた。

 「このままじゃ、やられるわよ!」

 「このままでいいんだ」

 そうして、鷹ロボが数メートルという距離まで近づいたところで、トマホークを横軸に持った両腕を突き出し、嘴に当てることで動きを止め、発射したビームによって、頭部を破壊して落下させた。


 「この後はどうするの?」

 「ごめん、そこまで考えていなかった」

 「半分行き当たりばったりじゃない。見て、敵のロボットが狙っているわ」

 落下地点と思われる場所には、騎士ロボが待ち構えていた。

 「・・・思い付いたわ。トマホークに電気をありったけ充填させて、わたしはアイアンライガーとバインウィングを街から一時的に離すから」

 「それでどうするの?」

 「着地する寸前で振り下ろして、そうすれば敵をどうにかできる筈だから」

 「天野さんを信じるよ」

 凪が電気を充填させたトマホークを頭上に掲げる中、成実はライガーとウィングを操作して、街から離していった。


 そうして、ゴーバインが地上に近付く中、騎士と馬の二体の敵ロボットは、攻撃体勢に入っていった。

 「今よ、トマホークを振り下ろして!」

 電気を充填させたトマホークをゴーバインが振り下ろすと、刃を通して放射された電流が津波のように周囲に広がり、その強力な電圧に耐えらなかった街灯やビルの照明器具が次々に破裂していき、波をまともに浴びた騎士ロボと馬ロボの二体は一時的に動けなくなった。

 「すごい。天野さん、よくこんな攻撃方法を思い付いたね」

 ゴーバインが着地する中、凪が尋ねてきた。

 「さっきの騎士の攻撃を参考にさせてもらったのよ」

 二人が話している間に、電流攻撃によって所々から黒い煙を上げる騎士ロボと馬ロボは突撃してきて、頭の無い鷹ロボは頭上から迫ってきた。


 「次は中原君が考える番だよ」

 「それなら、このまま待ち構えていよう」

 「それだけ?」

 「僕のタイミングで、アイビームを真上に撃って」

 「いいわ」

 ゴーバインは、頭部を真上に向け、トマホークを右後方に振りかぶった姿勢のまま、迫ってくる三機を待ち構えた。

 三機は、獲物を一斉攻撃しようと、剣とドリルと爪を突き出した姿勢で向かってきた。

 「今だ!」

 凪の合図に、ビームを真上に発射し、ゴーバインは発射したまま、その場で回転しながらトマホークを横軸に振り回した。

 ビームは鷹ロボの胴体を貫き、トマホークは騎士ロボの下半身を、馬ロボの首を刎ねていった。


 「トドメをさそう」

 「待って、敵が何かするみたいよ」

 成実の言葉通り、騎士ロボから電流が発せられ、それを受けた二体の残骸が集まり始めた。

 そうして騎士ロボを中心に馬ロボの本体が下半身、頭は左手に鷹ロボの翼が馬ロボの側面に合体して、ケンタウロスのような形態になり、それに合わせて剣が槍に変形した。

 

 「合体したわ」

 「こっちも合体しよう! ライガーとウィングを戻して」

 「了解」

 成実の操作で二機が街へ戻ってくると、ゴーバインはジャンプして下半身をパージし、それに合わせてライガーの頭部が外れ、上半身とライガー本体が合体したのに続き、ライガーの背面部にウィングが合体して、四脚形態になった。

 「バインランサーを」

 射出されたランサーを受け取ったゴーバインは、武器に電流を流し、ライガーの頭部を盾にして、ケンタウロスロボに真正面から向かって行った。

 二機は、雷と炎を宿した槍を突き合い、盾をぶつけ合わせ、さらに上半身は武器を獣型の下半身は前足を打ち合わせるなど、人間の馬上試合を遥かに超えるスケールの激戦を繰り広げた。

 

 何度目かのぶつかり合いの最中、ケンタウロスロボは伸ばした頭部の角を突き出し、ゴーバインの左目から後頭部にかけて貫いた。

 「やられた。天野さん、大丈夫?!」

 モニターの左部分の映像が一時的に途切れ、サブカメラによって回復する中、凪は成実に通信を送った。

 「天野さん、返事をして!」

 数度呼び掛けるも返事はなく、成実のコックピットを映す画面を表示させた。


 映し出されたのは、左半分が破損しているコックピットとシートにぐったりともたれている成実の姿で、左半身を大きく抉られて、左腕は跡形もなく削ぎ落とされ、傷口からの大量出血によって瀕死の状態になっていたのだった。

 「天野さん、お願いだから返事をして!」

 凪が、何度呼び掛けようと成実は、反応しなかった。

 そうしている間に、ケンタウロスロボは槍を突き出し、ゴーバインの胸部を突き刺してきた。

 凪は、ゴーバインにスピアと盾を捨てさせ、両手で槍を受け止め、先端部分で進行を防いだ。

 

 「くっそ~! こうなったらライガーをパージして自爆させるしかない」

 凪は、ライガーをゴーバインからパージして、ケンタウロスロボに取り付かせ、その隙に両手を離して距離を取った。

 「後はライガーを自爆させるだけだ。操作を受け付けない?」

 自爆コードを表示させようと操作するも、エラーメッセージが表示された。

 「さっきの攻撃でバインファイターからの操作プログラムが回らなくなっているのか。天野さんが操作するしかないけど、あんな状態じゃ無理だし」

 凪が、困惑する中、ライガーはケンタウロスロボの攻撃で、破壊されつつあった。

 

 「・・・・自爆させれば・・・・・いいのね・・・・・・・・」

 成実からの応答だった。

 「天野さん、大丈夫かい?」

 「全然大丈夫じゃないけど、こうしないと地球が守れないもの・・・・・・・」

 成実は、全身を駆け巡る痛みを堪えながら、右腕を動かして、まだ機能しているモニターを操作し、朦朧とする意識を振り払い霞む目を必死に凝らして自爆コードをタップすると、ライガーは自爆して、ケンタウロスロボは爆発に包まれた。

 

 「どうだ?」

 凪が、前方を警戒していると爆炎の中から所々が破損した上半身だけの騎士ロボが、槍を突き出した姿勢で飛び出してきた。

 「まだやるか!」

 凪は、ゴーバインに近くに落ちているスピアを右手で拾わせ、前方に突き出させた。

 二本の槍が交差し、騎士ロボの槍はゴーバインが右腕と同時に突き出した左腕を、ゴーバインの槍は騎士ロボの胸を貫いた。

 「これで終わりだ!」

 ゴーバインが、スピアに電気をありったけ込めた後、右腕を射出すると騎士ロボは空中で爆発し、跡形も無く消え去った。


 「勝ったんだ・・・・・・・・」

 言い終えた成実は、意識を失った。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る