7人目 流刑の星

『判決、被告人K氏を有罪とし、惑星アルファへの流刑に処す』


法廷で言い渡された言葉を頭の中で繰り返し、宇宙船の中から外を眺める、どこまでも暗く続く宇宙空間は、俺の行く先を示しているかのようだった。

そもそも、身に覚えのない罪で何故ここまでの刑を背負わなければならないのか、自分の人生の理不尽さを呪う、長旅の中でできることと言えば、ただそれだけだった。


「お前は何の罪で流刑なんかになったんだよ」


手枷を付けられたままベンチに座る男が笑った。


「俺は何もしていない、身に覚えがないんだ」

「隠したって仕方ないだろ、この船には俺ら2人しか居ないんだ」

「本当なんです、たまたま惨殺死体の第一発見者になって、たまたま疑われて、そもそも、被害者との面識もないのに」


自分の手枷を睨みながら言う、俺の運の悪さを象徴したかのような、そんな手枷だ。


「そりゃ災難だな、俺はな、人を殺したんだ、5人だぞ、だが後悔はしちゃいない、奴らが悪いんだ」


人を殺して後悔をしていないと言い放つ異常者と一緒に狭い宇宙船に押し込められたのも、運の悪さが祟ったと言ったところか。


手枷の中からパチンと音がする、同時に手首に巻き付いていたワイヤーが巻き取られ、手が自由になった。


「着いたみたいだな、惑星アルファ」


船体が大きく揺れ、窓の外の景色が変わっていく。


「まぁ、仲良くしていこうぜ、これからこの星で生きていかなくちゃいけないんだ」


自由になった手をプラプラさせながらストレッチをする男が笑う、とんでもない、いつ殺されるか分かったもんじゃない。

こうして俺の、惑星サバイバル生活が始まった。


* * * * *


サバイバル生活7日目、簡単な話だ、こういった環境で一番に起こるのが食料問題だ、この星の生態系は異常に貧弱で、なかなか食べられるものが見つからない、人が複数人いれば取り合いになるのが当然の流れだ。


目の前で頭から血を流して呻く男を見下ろして、俺は口の中に溜まった血を吐き捨てた。


「躊躇いが無いな……慣れた手つきだ……」

「当たり前だ、お前確か、5人殺したって自慢してたな」


目の前の男は既に事切れたのか、返事をしなくなった。


「50人だ、俺はお前の10倍は殺してきている、お前で51人目だ」


こんな見捨てられた星で生き残るためには、持っている全ての記憶を総動員して生きていかなければならない。

俺は勝ち取った食材を手に、雨風をしのぐ家となった燃料の無い宇宙船へと帰っていった。


* * * * *


「脳に特定の周波の電磁波を浴びせ、相手に架空の世界を見せる、その中で極限の状況を作り出し、被験者の眠っていた記憶や人格を無理やり掘り起こす、これが我がアルファ社の新技術です」


モニターの奥で暴れる男が取り押さえられている。


「このように、記憶を閉ざして心の底から善良な市民になりきっていた凶悪殺人犯のK氏ですら、本来の凶悪な人格を取り戻し、自白までしています」


説明をしていた白衣の男が指を鳴らす、モニターの電源が切れ、暗かった部屋の電灯が一斉に点いた。


「以上、架空現実を用いた催眠尋問のプレゼンテーションでした、ご静聴ありがとうございます」


ほんの少しだが、視界の端に小さなノイズが走るのが見えた気がした。

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