12人目 最期の時間
『つまり、あの凶星の光が最大になる時、人類は確実に滅びるということで──』
コメンテーターの言葉を最後まで聞かず、私はテレビの電源を切った。
昼間だというのに空に赤く輝き続ける星は、最初は単なる不吉の予兆とされていたが、天体の動きに従わずにそこに居座り続けたり、次第に光が強くなっていってるという事実から、地球になんらかの影響が出るのではないかという本格的な終末論まで呼び寄せ始めている。
実際、私もこの世界の未来は長くはないだろうと思っている。
だがそれも私には関係のない話だ、元々死ぬ運命なんだ、愛する人と最期を過ごせればそれでいい。
私は腕に繋がれた点滴の針を引き抜き、ベッドから降りた、うん、体調はまだ良い方だ。
病院を抜け出し、私は走った、心臓が痛むがそれでも走る、世界の最期を、あの人と過ごしたい、ただそれだけのために。
「お前、なんでここに……」
部屋の扉を開けた私を見て、愛しい彼が驚きの声を上げた。
私は何も言わずに彼の元へと歩み寄り、彼をしっかりと抱きしめる、心臓の痛みが徐々に遠のくのを感じながら、私は命の終わりを悟った。
「最期ぐらい、あなたと居たいもの」
窓の外に広がる真っ赤な光が、世界の終わりを告げていた。
──ああ、愛しているわ。
* * * * *
「ご臨終、15時49分です」
医者が告げる、ベッドの脇で男性が声を上げて泣くのを、俺は窓越しに後輩と一緒に眺めていた。
「ドラマチックな最期を夢の中で見させながら逝かせてくれるなんて、いい時代になったもんだな」
ベッドの隣に置いてある機械を見て、率直な感想を呟いた。
「そうですか? 紛い物の最期の別れを見るぐらいなら僕は現実で別れを告げたいですけど」
後輩が、心底不満そうに返してきた。
まぁ、そういう考え方もあるのだろうと割り切り、俺は今日の昼食は何にしようかと考えつつ歩き出した。
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