13人目 嘘の嘘
今日は四月一日、エイプリルフールだ。
かと言って俺は気の利いた嘘が言えるわけでもなく、この日は毎年あちこちの四月馬鹿を楽しんでいる程度のものだ。
「なんか嘘言ってみろよ」
友人に突然言われる、出来ないと分かった上での発言だ。
「うーん、さっきそこでUFO見た」
「ははは、つまんねー冗談だな」
まぁ毎年こんなものだ。
それでいい、至って平和ではないか。
その瞬間だった、俺たちが食事をしていたファストフード店の扉が勢いよく開いて、遅れて来たクラスメイトがこちらへと駆け寄ってきた
「ユ、UFOが! 今そこのビルの真上に!」
あまりもの大声に何を言ってるんだコイツはといった反応が大半だった、しかし俺は外から僅かに聴こえる不思議な音を聴き逃さなかった。
「なんだアレは」
「でっけーラジコンだな」
外から騒ぐ声が聞こえる、窓の外は上空を指差したりスマートフォンのカメラを空に向けたりする人でいっぱいになっている。
「UFOなんて居るはずないだろ」
俺がボソリと呟いた瞬間だった。
「消えた」「どこに行った?」といった声と共に外の人たちがキョロキョロし始めた。
その様子を見ていた友人が俺にゆっくりと視線を移した。
「なぁ、もう一回嘘言ってみてくれないか?」
「なんでだよ」
「いいから、例えば近くが火事になってるとかそういうの」
妙なお願いに困惑しつつも、俺は少し考え込んだ。
「この前一億円拾った」
どうしようもなくくだらない嘘だ、騙すつもりもないが本気で騙そうと思って言っても普通は信じてもらえない。
数秒の沈黙の後、バサリと音がして目の前に何かが落ちてきた。
「……札束?」
札束だ、この国の最高額紙幣の真新しいやつが紙の帯で束ねてある。
「どこからこんなもの──」
友人が言いかけた瞬間、とてつもない量の札束がその頭上から降り注いだ。
一千万どころじゃない、軽く一億はありそうだ……
「お前がついた嘘、全部本当になるんじゃねえの?」
騒然とする店内で友人が俺に興奮気味に言う。
俺はそんなバカなと思いつつ次の嘘を考えた……そうだ、こんなのはどうだろうか。
「この後自家用ヘリが迎えに来るんだけど、俺の家の大豪邸見てみる?」
外からヘリコプターの轟音が聞こえる、置かれた状況を把握した俺はニヤリと笑った。
──面白い力を手に入れてしまった!
* * * * *
あれから数年、俺は友人と2人で夜道を歩いていた。
「毎年4月1日だけついた嘘が全部本当になる体質だなんて、なんで16年間も気付かなかったんだよお前」
「嘘つくの得意じゃねえんだよ、お前が一番知っているだろ」
あれから毎年1日だけコツコツとつきつづけた嘘で俺はかなり裕福な暮らしをしていた。
「今では立派な嘘つきだけどな」
「はは、そうだな」
たまにはゆっくりと、と思って友人と散歩をしていたが、こういうのも悪くないなとふと思った。
「お、12時回ったな」
友人が腕時計を見て言った。
「それにしても、この体質に気付かないで「明日世界が終わる」だなんて言ったりしなくて良かったな」
「おいおい、気を付けろよ、本当にそうなったらどうすんだ」
「安心しろ、もう日付跨いだんだろ?」
そう言って俺はスマートフォンを取り出して画面を見た。
「……えっ」
思わず声が漏れる、スマートフォンがゆっくりと手から滑り落ち、音を立てて地面に衝突した。
「おい、どうしたんだ」
「……お前、いつもの電波時計は?」
「ああ、修理中だから……まさか!」
友人が俺が落としたスマートフォンを拾い上げ、ロック画面を確認してそのまま膝から崩れ落ちた。
『23:59』
まだ4月1日が続いていることを知らせるその時刻が、来たる「明日」への表示に切り替わった。
ゆっくりと見上げると、4月2日の夜空を、真っ赤に燃える隕石群が埋め尽くそうとしていた。
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