14人目 夢日記の恋

ここ数日、何度も夢に同じ女性が現れる。

様々な役割で俺の目の前に現れては意味ありげな笑みを残して夢から覚めた俺の記憶からゆっくりと立ち去る。

ぼんやりと残った朝の記憶を頼りに、枕元に置いたノートに夢の内容を記録していくが、彼女に関する記述はいつも曖昧だ。


「好きよ、私あなたの事が大好きなの」


ある日の夢の中で、その女性に言われた。

その時は何故か彼女の顔も声も姿もハッキリと覚えていた。

あぁ、君は一体誰なんだとその日1日考えていたら、なんと帰りの電車でまったく同じ顔の女性を見かけてしまった。

偶然なのか、毎日見かけていたのを無意識下で覚えていたのか、だがそんなのはどうでもいい、俺はあの人が気になって仕方がなかった。

──夢で見たなんて言ったら、気持ち悪がられるかな……

俺は勇気を出して、あの人の方へと歩み寄った。


* * * * *


「ご利用頂きありがとうございます、良き新婚生活を」


物腰の柔らかな青年が頭を下げた。


「便利な時代になったものね、対象の人間に見せたい夢を見させることができるなんて」


女性はミステリアスな笑みを浮かべて店を後にした。


「またのご来店を」

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