11人目 悪魔の召喚

「こんにちは、悪魔です」


玄関先に立っていたスーツの男はそう言って胡散臭い笑みを浮かべた。


「は?」

「だから、悪魔ですってば、あなた昨日召喚の儀を行なったでしょう?」


何故知っているんだ、確かに上司が憎たらしくて呪ってやろうと冗談半分で買った本を参考に悪魔の召喚を試みた、しかし召喚した悪魔が後日玄関のインターホンを押して訪問してくるなんて聞いた事がない。


「悪魔ってのは魔法陣から出て来るんじゃないのか、からかっているなら帰ってくれ」

「そんな、あなたが描いた魔法陣小さすぎですし、皆さん紙や壁に描かれるのでいつも出にくいんですよ、世の中に流通させる本には地面に描くようにと注釈を入れさせているのに」


無言で扉を閉じ鍵を閉め、本を確認しに行く、確かに書いてある、小さく注釈が入れてあった。


「だから言ったでしょ」


ドキっとして思わず振り向く、招き入れた覚えは無いのにここまで上がり込んでいた。


「一度開けて貰えれば出入りは自由ですので、驚くことは無いですよ、さて、上司のTさんを呪いたいとの事でしたが、どのように呪いましょうか」

「フン、まだ信じてるワケじゃないが、お前が本物の悪魔だと言うなら、証拠を見せてもらおうじゃないか、Tの野郎をとびっきり酷い事故に逢わせてくれ、ギリギリ死なない程度にな、奴には生き地獄を味わってもらう」

「かしこまりました」


そう言うと悪魔はスゥと消えてしまった。


* * * * *


帰宅して一番に例の本を机に叩きつける、召喚方法が書かれたページを読み、もう一度奴の召喚を試みようとした。


「再度の召喚は不要ですよ」

「うわっ」


悪魔が部屋の隅に立って電気のスイッチを入れていた、つくづく悪魔らしくない奴だ。


「どうです? Tさん、酷い目に遭っていたでしょう?」

「あぁ、最高だった、そうだ、次なんだがな」

「言わなくて結構ですよ」


さすが悪魔だ、人の思考を読むなんて朝飯前ってことか。


「私の仕事は終わりました、見てくださいよあなたの顔」


悪魔が俺に鏡を向けて来る、そこに映っていたのは、到底俺のものとは思えないバケモノのような顔だった。


「ば、バケモノ!」

「バケモノではございません、悪魔です、憎しみに歪んだその顔、誰よりも悪魔ですよ」


悪魔が机の上の本を手に取りヒラヒラと振ってみせた。


「私もそのように先代から悪魔の力を押し付けられました、次はあなたの番ですよ」


そう言って悪魔は姿を消した、部屋に残された俺の頭に残った思考は、どうしようの五文字だけだった。


* * * * *


ピーンポーン、チャイムを鳴らす、住民が扉を開けるのをニコニコ顔で待ち構える。


「はい、どちら様ですか?」


俺は待ってましたとばかりに満面の笑みを浮かべて答えた。


「こんにちは、悪魔です」

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