18人目 計画

ある朝、いつものように部屋を出ようとしたら扉が開かなかった。

鍵は開けたはず、念の為一度鍵のツマミを捻ってドアノブに手を掛けるが、ビクともしない。

「前から建て付けが悪かったからな……」

俺は苛立ちながら扉に体当たりするようにして扉を開けようと試みる。

身体に多少の痛みが残り、試みは無駄に終わった。

ここで俺の頭にはある一つの仮説が浮かんだ。

「……誰かいるのか」

俺は人から恨まれやすい仕事をしている、だから同業者、殺し屋から狙われてもおかしくは無い立場なのだ。

「察しが早いようで何よりです」

部屋の奥から少年が出てくる、随分とナメた依頼人もいたものだ、こんなガキを寄越して俺を殺そうなんて。

「土足はいただけないな、それと殺し屋ならこんな不自然な殺し方は良くない、お前どこの事務所のヤツだ?」

「それは言えません、殺し屋ですので」

少年がニコニコとしながら歩み寄る、俺は持っていた拳銃を取り出して少年に額に向けた。

「悪いが俺はそんな簡単に殺されてやるような人間じゃないんだ、相手が悪かったな」

「いえ、あなたの死は既に決まっています、このマンションにあなたがいる限り避けられない結末ですね」

銃声と共に少年がその場に倒れた。

「このマンションに隕石が落ちるというシナリオです、先ほど隕石型の質量爆弾を我が社の衛星からこちらに射出しました」

少年は構わず喋り続ける、恐らく遠隔操作のアンドロイドだろう。

「何を馬鹿なことを、殺し屋の鉄則だろう、標的以外は絶対に殺さない」

「そこはご安心を、あなたはここにいつ引っ越してきましたか?」

「5年前だが……まさか……」

「このマンションの住民の方、全員標的なのですよ」

窓の外、遥か空に真っ赤に燃えながら接近する何かが見える、このアンドロイドの言っていることは本当のようだ。

窓に手を掛ける、扉と違って手応えが無い。 俺はニヤリと笑ってアンドロイドの残骸を見下ろした。

「この下は池になっているんだ、扉を開かなくするならこっちも処理しておくんだったな」

「やめた方がいいですよ、ここは6階ですし」

「俺を殺そうとしてるくせに怪我の心配かよ」

俺はそう言い残して、窓から飛び降りた。


* * * * *


「同じ日、同じ時間に同じマンションの住民が一斉に飛び降り自殺か、妙な話だな」

血溜まりと化した駐車場で、口元をハンカチで抑えながら中年の刑事が呻いた。

「でも、自殺以外に考えられないじゃないですか、こんな大人数どうやって殺すんですか」

「別に単独犯だなんて言ってないだろ」

「組織的な犯罪でも無理じゃないですか、どの部屋にも争った形跡なんてありませんでしたし」

若手の刑事らしき青年と議論を交わす、どうにも話の終点が見えなくなってきたところで、青年が問題のマンションを見上げた。

「なんか、このマンションの住民が実は全員殺し屋に集められた標的だったりしないですかねぇ、そして集団幻覚とか見せられて、この駐車場を池か何かだと思って窓から……」

「何を馬鹿なことを、もう行くぞ、鑑識も撤収した」

2人の刑事が現場を後にする、その様子をマンションの一室から少年型のアンドロイドが眺めていた。

「そんな馬鹿な話が、実は意外とあったりするんですよ」

見た目に全く合わない青年の声で、アンドロイドは笑った。

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