フシギ世界7丁目
ナトリカシオ
1人目 てんきうらない
あーしたてんきになーあれー
小さな女の子が靴を飛ばして遊ぶのを、ベンチに座って眺めていた。
子供はいいよなぁ、悩みなんて無さそうで。
ボンヤリと今日の出来事に考えを巡らせる、俺は作業中の事故で大怪我をした同僚のために救急車を呼んだだけなのに上司は俺に対して激怒、隠蔽出来なくなると喚き散らしたのだった。
「辞めて正解だったのかなぁ…」
深くため息をつく、部下が怪我をしたというのにあんな言動を取れるなんて人間とは思えない、せめて人間らしい人間と働きたいものだ。
ふと見ると、先程まで天気占いをしていた女の子がこちらを見上げていた。
「おじさん、てんきうらないしよーよ!」
失礼な子供だ、俺はまだ24歳だぞ。
「お兄さんはそんな気分じゃ無いんだ」
「あのね、あしたがはれだったら、すごくいいことがあるんだよ!」
残念ながら天気予報では明日は大雨になる事になっている。
靴が裏だろうが表だろうが降水確率は100%なんだ。
「やろうよ、てんきうらない」
もうどうにでもなれと靴を放る、靴は見事に靴底を地面に向けて着地した。
「あしたははれるね! きっといいことあるよ!」
そう言って少女はどこかへと走り去ってしまった。
#############
翌日、ハローワークに向かうために自宅を出た俺を待っていたのは雲ひとつない晴天の空だった。
雨雲レーダーでも晴れるような余地なんて無いほど雲に覆われていたのに突然雲が払われてる。
「きっといいことあるよ!」
少女の言葉が脳裏をよぎった。
まさかね……と、俺はハローワークに向かう足を止め、宝くじ売り場に向かった。
200円くらいなら、外れても痛手ではないだろうとスクラッチを購入、その場で削ってみた。
「当たってる……1万円!?」
驚いた、今まで宝くじなんて500円すらも当たったこと無いのに、ここにきてこの引きである。
当たった1万円を財布にしまい込み、俺はあの公園へと向かった。
「おにいさん、てんきうらないしよーよ!」
聞き覚えのある声が後ろからする、振り向くと昨日の少女がいた。
「もちろんだ、明日も晴れるといいな」
信じていた訳ではない、偶然だろうと思うが、もう一度試す価値ぐらいはあるだろう。
「はれたらきっといいことあるよ!」
少女は屈託のない笑顔で笑った。
靴を放った結果は、表向き、つまり明日も晴れるという事らしい。
「あしたははれるね!」
「ああ、いい事でもあるといいな」
少女はニンマリと笑い頷く、そしてまたどこかへと走り去っていった。
#############
「お前さ、疲れてるんだよ、じゃなきゃそんな子供の遊びに連日付き合ったりしないって」
あれから1ヶ月、毎日少女の天気占いに付き合った俺は、職を手にし、株で1発当て、可愛い女の子とも偶然知り合えた、幸運ここに極まれりってヤツだ。
「実際運がいいんだから仕方ないだろ、あの子はきっと、幸運を呼ぶ座敷わらしだよ」
座敷じゃねえじゃんと笑う友人、どうやら冗談の1つだと受け取っているらしい。
「じゃ、俺そろそろ行かねえと」
「にしても、そろそろ雨降らねえと、水不足とかシャレにならねえみたいだからさ、お前が言う事が本当ならそろそろ雨降らしてくれよ」
そんな言っても、靴がどうしても表を向くんだから仕方がない、俺はそのまま公園へと走った。
「おにいさん、てんきうらないしよーよ!」
「ああ、明日も晴れたらきっといい事があるだろうな」
慣れたやり取りを済ませ、俺は靴を大きく放った、結果は晴れ、明日も雨は降らないらしい。
ふと、1つの疑問が浮かんだ。
この靴、裏ってどうなってたんだっけ……
飛ばした靴の前に立った俺は、ゆっくりと靴に手をかけて、ひっくり返した。
「……表…だな…?」
靴をひっくり返したはずなのに、表の裏に表があったのだ。
「だからいったじゃん、うらないしよーよって」
少女の声が背筋を冷やす、そっと空を見上げると、晴天だった空に真っ黒な雲が広がっていた。
うらないって、裏無いだったのか─
1ヶ月分の雨が、俺の頭上にゆっくりと広がっていった。
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