5人目 宇宙創生のすゝめ

いつも行く古本屋で、奇妙な本を見つけた。

他の本と何ら変わりなく並んでいるはずなのに、それは異様な存在感を放ってそこにあった、今までずっとそこに居たかのような、そんな雰囲気だが、絶対にそんな事は無いと記憶が主張している。


「宇宙創生のすゝめ……」


古びた本を手に取り、タイトルを口に出して言う、何とも胡散臭いタイトルだが、不思議と惹かれる何かがあった。


「何だその本、買い取った覚えは無いんだけどなぁ……」


本をカウンターに持って行った俺に、店主のお兄さんが言った。


「そんな怪しい本欲しいの?……まぁいいや、100円でいいよ」


お兄さんは面倒臭そうに言う、私はカウンターに100円玉を置いて店を後にした。


* * * * *


あなたの机の上に小宇宙を!

この本は、机の上で小宇宙を作ってみたい、そんな人のための本です!


「誰がそんな事考えるんだろう……」


部屋に帰り着いた私は、読み始めた本に早速独りでツッコミを入れた。


まず、小宇宙を作るには、宇宙を知る必要があります。

宇宙とは─


面倒だ、ここは後回し。

私はページをパラパラとめくり、面白そうな項目は無いかと探した。


─小宇宙には、まず小宇宙プラントとなる器が必要です。


ここからついに小宇宙を作り始めるくだりに入るようだ。


プラントは卓上小宇宙を作るのに丁度いいサイズを選んでください。

マグカップ等のサイズがちょうどいいでしょう。

小宇宙を作るのに必要な材料は─


ザッと見た感じ、少しホームセンターに行けば揃う品ばかりだ。

本当にこれで小宇宙なんてものができるのだろうか。

私はそれがどうしても気になり始め、財布を手に部屋を出た。


* * * * *


ついに完成の時だ、2日寝かせた小宇宙の基にゆっくりと烏龍茶を注ぐ、仄かな光を帯び始めた小宇宙の基に、さらに用意していたラムネ菓子をその上に撒く。

本当にこんないい加減な感じでできるのだろうか。

疑問に思うが、こんなので光るはずが無いものが光っているからきっと本当のことなのだろう。


プラントにしていたマグカップにヒビが入り、光が小宇宙の基の内側へと吸い込まれていく、書いてある通りだ、真っ黒な球体が完成しつつある。


ふと、ページの最後に注意書きがしてあるのに目が留まった。


『注意:宇宙が誕生する瞬間に起きる現象はご存知かと思います。小宇宙でもその現象が起こる事には変わりませんので、最後の仕上げをする際は充分に気をつけてください』


真っ黒な球体が、内側に吸い込んだ光を吐き出すかのように、白く、強く、まるで爆発する直前の何かのように輝き始めた。


あ、宇宙の始まりって……


重要な事に気付いたその時には、目の前で宇宙の誕生が始まっていた。

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