8人目 世界構成手帳

いつも通る公園のベンチに、妙な本が置いてあった。

表紙は無機質な無地の黒で、タイトルとして箔押しで「世界構成手帳」と書かれている。

ページをパラパラと捲ると、街の地図に注釈線が入り、誰かの名前と日付や時刻、鉤括弧で括られたタイトルのようなものが書き込まれていた。


「てんきうらない……?」


一緒に書かれていたページ数を見てそのページを探してみる、そのページはすぐに見つかった。

そこには短編小説のような文章が書き込まれていて、ページの最後には大きく「済」という印鑑が押されている、そういえばさっきの注釈線の先の公園、記録的と言っても足りないほどの集中豪雨に見舞われたエリアの中心だったっけ。


「ヤツが通る……」


複数描かれた注釈線、番号が振られたその一番大きい数字、先月ある男が姿を眩ましたマンションだ、彼は何日も前から周囲に「ヤツが来る」と言っていたそうだ。


「宇宙創生のすゝめ……」


大規模な爆発事故のあったマンション、原因は不明とされている。


「未来広告……」


書かれていた男の名前は、つい最近その名を失墜させた元名映画監督だ。


「流刑の星……」


数日前に、俺がプレゼンテーションを見に行った全く新しいシステムの話だ、もちろん外部への流出は許されてないし、誰も流出させてないはずだ。


手帳は、ここから先が真っ白になっている。


最初の地図のページに戻って、もっと何かないかと探していると、この公園に向かう一本の線が、ジワジワと浮かび上がってくるのが見えた。


「俺の……名前……?」


日付、時刻が書き込まれる、ついさっきの時間だ、額に嫌な汗が浮かぶ、俺も、彼らと同じく、何かとんでもない目に合わせられるんじゃないだろうか──


パタン、と手帳を閉じ、深く息を吐いた。


この手帳を拾ったことが、この手帳に記される出来事の発端だとしたら、俺はこれからどうなるのだろうか。


いや、この手帳を使えば、俺はひょっとして──


神になったような、そんな感覚が、俺を包み込んだ。

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