8×2人目 世界構成手帳:弐
捨てたはずの手帳がいつの間にか手元に戻っている、何度捨てても必ず手元に戻ってきている。
「もうたくさんだ」
この手帳を使って様々な人生を垣間見てきた俺は、ある恐ろしい事実に気が付いた。
──誰も俺の事を認識してくれない。
触れることもできない、俺が何日欠勤しても会社は全く騒がない、俺が何ヶ月料金を滞納してもケータイ会社は何も言ってこない。
そもそも、俺は今この世界に存在しているのだろうか、世界構成手帳という名の明らかにこの世の物ではない何かの所有者となってしまった俺は、一体何者なのか。
俺はふと思い立って手帳のページを開いた。
地図のあるページで、公園の片隅に俺の名前が書かれている。
「手帳の所有権を失い、友人から連絡が入る……っと」
俺がこの手帳を手放すシナリオを書き込む、しかし書き込んだ内容はジワリと消えてしまった。
『君は神になった』
代わりに手帳に文字が浮かび上がる。
『神は勝手な都合では辞められない』
パタン、手帳を閉じる。
俺の身体をすり抜けてベンチに座った猫がニャーと鳴いた。
神は、勝手な都合では辞められない。
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