3人目 オーダーメイドの幸運
「お兄さん、幸運買ってみない?」
午後の講義が休講となったため、暇潰しに街をうろついていると、露天商に声をかけられた。
「何ですか、バカ高い水晶とか数珠とか買うお金なんて持ってませんよ」
俺の冷ややかな目線を物ともせずに露天商は笑った。
「そんなチャチなもんじゃないさ、あんなものは紛い物しか出回らないからね。僕が売っている幸運は正真正銘ホンモノの幸運、買えばたちどころに幸運が訪れるのさ」
露天商の口ぶりを聞いてると不思議と興味が湧いてきた、どれ、少し見ていこうじゃないか。
俺は露天商の広げた風呂敷の前に座る、並べられた小さなガラス玉の中では、様々な色の煙が渦巻いていた。
「まずはお試しにプチ幸運なんてどうだい?お代は特別に8割引、2000円だ」
「プチ幸運ってどれぐらいの幸運なの?」
「疑ってるねぇ、まあそれが普通の反応だ」
俺の心中を見抜いた露天商はニヤリとした。
「よし、今回だけは後払いでいいさ、このプチ幸運の玉を君の手で割るんだ、その後は何か適当に運試しをしてくるといい、僕はここで君が大興奮でお代を持ってくるのを待ってるとするから」
そう言って露天商は俺の手に紫の煙が閉じ込められたガラス玉を渡した。
タダなら構わないか、俺は素直にガラス玉を受け取り、露天商の元を後にした
◇◆◇◆◇◆◇◆
公園のベンチに座り、俺はビー玉より一回り大きいぐらいのガラス玉を眺めた。
「運試しねぇ…」
信じたワケじゃないが、小さな幸運が訪れるというなら何か試してみたくなるのが人の性というものだ。
ふと、通りの向こうのパチンコ店に目が留まった。
パチンコなんて勝てた試しがないが、小さな幸運を味方につけた俺ならいけるかもしれない。
そう思い俺は目の前のガラス玉を地面に叩きつけた。
◇◆◇◆◇◆◇◆
「いやぁ凄いですね!本当に幸運を呼び寄せるなんて!」
「気に入っていただけて何よりです」
割引される前の値段である1万円を露天商に握らせた俺は他の商品にも目を通すべく再び風呂敷の前に座り込んだ。
「お兄さん、普段はあんまり案内したりしないんだけどね、実はここに並んでる以外にももっと凄い幸運があるんだ」
バッと顔を上げる俺に、露天商は空っぽのガラス玉を見せた。
「オーダーメイドの幸運さ、幸運ってのも詰まる所ただの運、幸運が訪れるって言ってもどんな幸運が訪れるかは結局運なのさ、だけどコレは違う、効果が続く限り本人が望む幸運を次々と運んでくる、そんな幸運だ」
「オーダーメイド……幾らだ?」
パチンコで短時間で10万以上の利益を出した俺はこの幸運ならちょっとぐらい値段が張ってもすぐ取り戻せるだろうと考え、値段を聞く前から購入を決意していた。
「あんなプチ幸運でパチンコ行って有り得ない勝ち方をしてきたお兄さんの事だ、オーダーメイドしたらとんでもない儲け方をするんだろうね」
俺の手元に残ったいくつかのお札を指差して言う、単純な話だが、そんな幸運がついているなら確かに金には困らないだろう。
「お兄さんが今回儲けたお金を全額、とりあえず貰っておこう、後はお兄さんが払いたいだけ後日持ってくるといい」
「商談成立だ」
俺は露天商から渡された紙に必要事項を記入し、持っていたお金を全額露天商に渡した。
「1つ注意しておこう、オーダーメイドの幸運はお兄さん専用の幸運だ、他の人が幸運の玉を割る事があったら、お兄さんに用意されるはずだった幸運がどこかへ飛んでいき、反動でとてつもない不幸が訪れる、くれぐれも…」
「そんな勿体無いことしませんって、で、幸運はいつ頃取りに来たらいいですか?」
郵送するよ、と露天商は先ほどの紙をヒラヒラと振った。
◇◆◇◆◇◆◇◆
玄関のチャイムが鳴る、俺は急いで玄関先に向かった。
あれから1週間、ついに俺専用の、オーダーメイドの幸運が届いたのだ。
「こちらに判子をお願いします」
若い配達員に言われた通りに判子を押す、俺は早くこの箱を開封したくて仕方がなかった。
「あの、すみません……」
「どーもでしたー」
配達員が何か言いかけたが、俺はそんな暇は無かったのでサッサとドアを閉めてしまった。
「さーて、俺の幸運とのご対面だ」
俺はそう呟き、箱のテープを引き剥がした。
「……嘘だろ…」
蓋を開けた箱の中には、いくつかの小さなガラス片が転がっているだけだった。
その場に膝から崩れ落ちた俺の脳裏には、あの露天商の忠告がグルグルと回っていた。
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