第12.5話"大神騒乱"

 翌日それは突然、起こった。"大神オオガミ騒乱そうらん"とも言うべき、大神真琴死刑囚の死刑執行の余波が署内をおそった。


 翌日の早朝、かん署内でも大神真琴死刑囚の死刑執行の訃報でザワついていた。

それは事件関係者である俺がいるせいなのかも知れないが…そう思っていると、署内に入電が鳴った。

『警視庁から各局に入電。かん署管内で複数人による殺人が発生。場所は神無木第二住宅団地。繰り返す、場所は神無木第二住宅団地。至急、捜査員は急行せよ』


『警視庁から各局に入電。かん署管内で複数人による殺人が発生。場所は神無木だい3丁目△番地。繰り返す、場所は神無木台3丁目△番地。至急、捜査員は急行せよ』


『警視庁から各局に入電。かん署管内で複数人による殺人が発生。場所は神無木六丁目。繰り返す、場所は神無木六丁目。至急、捜査員は急行せよ』


『警視庁から各局に入電。かん署管内で複数…』

次から次に引っ切り無しに入って来る入電情報にかん署内はあわただしくなった。

「本庁ジョウカン(情報管理局)で何か機械トラブルでもあったんじゃないですか?」

「でも、所轄が行くしかないだろ。現場に行って見なきゃあ、何が起きているのかは分からない。いくぞ、部下アイボウ!」

 各部署の捜査員が現場に急行する中、俺は諸事情から正確には大神真琴死刑囚*死刑執行の考慮から署の留守番を頼まれた。署外から聞こえるパトカーのサイレン音。そのサイレン音は一斉に散らばり、遠くの方へ消えて行った。ほどなくして署内は、がら空き状態になった。

 すると、入れ違うようにして、神無木警察署玄関入り口に能面のうめんかぶった迷彩服の何者かが入って来た。若手の門番警官が制止しようとするが能面の奴は、はだけた迷彩服のふところから拳銃らしき物を左手で取り出した。

「きゃあああ」

 婦人警官達の悲鳴が上がる警察署内。両手を上げて降伏する若手の門番警官。

 そいつは署内を見渡すと、署内に残っている署員達に問いかけた。声の主は男だと、はっきり分かった。

「大神ミコト様と最期に会った刑事は誰だ?」

 その問いかけに対し、全署員の視線が俺に集中する。すると、いきなり能面男は対応カウンターを飛び越えて、丸腰マルゴシの俺のひたいに銃口を当ててきた。予想外の出来事にすきを突かれてしまった俺は、反応に出遅れて身がまえられなかった。この一瞬の判断の悪さは、言うまでも無く刑事失格だ。

「お前か?」

 仕方なく俺は、両手を上げながら素直にうなずいた。何故なぜなら、額に突きつけられた銃口のおもさから、本物ホンモノの拳銃だと確信したからだ。

「大神命様は、お前と会って最期どうしていた?」

 額に銃口を向けられながらの質問に緊張の汗が自然と輪郭りんかくつたった。

「大神し…ミコト様は盛大に笑っていたよ」

 死刑囚と言いかけたが相手に刺激を与えないよう、相手のペースに合わせて敬称へ言い換えた。

「そうか‥」

そう言うと、能面男は考え込んでしまった。俺はチャンスだと思い、咄嗟に鎌を掛けた。

「素直に投降すれば、大神命様がいた場所と同じ独房に入れるかも知れないよ」

「それは本当か!」

 俺の作戦は見事に的中した。

「本当だとも…」

「それじゃあ、コレをあげる」

 そう、能面男から差し出されたのは拳銃だった。発砲されない様に慎重に手で取り、床にスライドさせた。そして俺は、そいつに手錠を掛けた。

「午前08時08分、銃刀法違反で現行犯逮捕。」


 立て続けに署内へ入った入電の件も、この能面男の“仕業イタ電”だと分かりあっなく一件落着したかのように思えたが、これが終わりの始まりだった。

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