第03話 東京拘置所にて

 東京拘置所の大きな塀に沿って歩いていると、中央正面門に辿り着いた。門番警官に警察手帳と面会申請許可書を見せて、東京拘置所の敷地内に入った。天楼てんろうの様にそびえ立つ、六方の拘置所塔。あの中に大神真琴死刑囚がいる。あの時、大神死刑囚は一命を取り留めたが、当時の後遺症から車いす生活を余儀なくされている。


 個別面会室で待つこと数十分後、大神死刑囚は担当刑務官に車いすを押されながら、面会室内に入ってきた。壁と机をはさんだアクリル板しに対面する。大神死刑囚と会うのは、約5年ぶり二度目だった。大神死刑囚の容姿は、少し大人になっていた。判決当時、とある大学院の世論調査アンケートでは約98.6%の圧倒的な死刑判決賛成派で世論が形成されていたが、その容姿ルックスゆえに大神死刑囚を"みこと"(=神)とあがめて、異例の死刑判決に反対していた者も少なくはない。げんに"大神家事件"裁判の公判中のさいにはインターネット上で、"大神オオガミきょうだん"なるものが現れ、公安部の監視対象になる事案にまで発展した。たしか十年後の今でも、それをに新設された本庁サイバー課や公安部の監視対象になっているという。俺は、大神死刑囚に語りかけた。

「久しぶりだな…」


「お前の心を操ってやろうか?」 

それが大神死刑囚の面会第一声だった。

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