第14話 死神との邂逅

珈琲コーヒーと紅茶、どちらが好みですか?」

「自分は紅茶です」

「私とは馬が合いそうですね。私も珈琲よりは、紅茶の方が好きなんですよ。」

 そう言うと、教授はユリが生けられているガラビンの奥から、紅茶セットを一式取り出してきた。ここは大学院の教授準備室。言わば、教授のプライベート空間だ。

「今、大変なのでは?」

 教授は紅茶入れの容器に入っている紅茶をティーカップに入れながら聞いてきた。

「まあ、色々と…」

 2つのティーカップに紅茶を入れた所で改めて自己紹介をした。

「神無木署刑事課第一係、くるま けいと言います」

「私は錦織にしこり総合大学院教授のもり そうと申します。」

 森教授は白髪に丸縁眼鏡が似合っている紳士的な印象の教授だ。

「単刀直入に申し上げますが、森教授は約5年前に事件の捜査中に殉職した木更津真緒まお刑事をご存知ですか?」

 森教授は紅茶を飲もうと、ティーカップに手を掛けたが途中で止まった。

嗚呼ああ、知っているとも、当時は事件の捜査協力の依頼を木更津刑事から独自に私の元へ尋ねて来てくれてね…今日の君みたいにね。確か、"5月13日の金曜日"だった。彼女は珈琲が大好きだったみたいだから、よく覚えているよ。」


『"5月13日の金曜日"!!』


「今は大学院の教授だが、その当時の私は大学教授だった。」

「木更津刑事から何か聞いていませんでしたか?何か些細なことでもいいので…」

「申し訳ないが、これと言ったものは…お力になれなくてすまない。そして木更津刑事には心から、ご冥福を祈りする…では、これで失礼を。」


 結局、手がかりはなく森教授も午後からの講義のため、大学院を後にした。

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