第08話 悪魔の証明

くるま刑事、他人の会話を盗み聞きとは関心せんぞ!」

ベテラン刑事がおこり口調で亜車に注意をした。それに対して、亜車は状況を丁寧ていねいに説明した。

「たまたま忘れ物を取りに帰ったら、あなたがたが例の事件の会話をしていたので忘れ物を取りに戻るのが気まずかっただけですよ」

 そう言うと、亜車は自分の机の上にある御守り付きの鍵を手にとって二人に見せた。


「亜車刑事は、先輩の言い分をどう思いますか?」

 ベテラン刑事が亜車に何かを言いかけるが、それの間を割る形で新人刑事が亜車に問いかけた。その問いかけに亜車は即座に答えた。


「あなたの言い分は、間違っています。もし間違いを証明できたら、その大学院の教授の連絡先を教えて下さい。そして間違いを証明できなければ今後一切、この話は終わりにします。これで、どうですか?」

「…いいだろう。」

 亜車の提案にベテラン刑事は、そう一言ひとこと返答した。その言葉にうなずいた亜車は、悪魔の証明を始めた。

「先ず始めに疑われている大学院の教授が当時の合同捜査本部にはいませんでした。そして現在、本件に関して警視庁本部特別捜査コールド・ケース課にもいまだ協力していません」

「それは本当か?」

「何なら、本庁の本部に連絡を取ってもらってもかまいません」

「それなら、その物証は?」

 

 ベテラン刑事にそう言われると、亜車は白手袋をはめて自分の机にある一番下の*鍵付きの引き出しに手を掛けた。亜車は御守りに付いている鍵で引き出しを開ける。その中には当時の膨大な捜査資料が、ぎっしりと入っていた。そこから当時の捜査日誌手帳を取り出した亜車は、その一冊をベテラン刑事に手渡す。約十年前の色せた捜査日誌手帳をペラペラとめくるベテラン刑事。


「これは当時、木更津警部補が独自に付けていた直筆の捜査日誌手帳です。遺品返却時、木更津警部補の遺族の方からゆずり受けました。一番、最後のページには木更津警部補が亡くなる一日前の捜査情報も載っています」


『捜査32日目。明日も亜車班長と共に容疑者候補の勤務先を引き続き張り込み。天気予報では曇のち雨。黒い折りたたみ傘、必須!!』


 木更津警部補の捜査日誌手帳の最終ページを読み終えたベテラン刑事は、神妙な面持ちで口を開いた。

「次は性別情報の件か…」

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