第05話 相棒がいない理由

 かん警察署内から外出する亜車刑事の後ろ姿を横目に新人刑事が、ベテラン刑事にあることをたずねた。

くるま けい刑事は、僕みたいな部下アイボウがいませんよね?それって何故なぜなんですか?」

 亜車刑事が警察署から出て行ったことを確認して一息ついたベテラン刑事は渋々、聞かれた問いかけに答えた。

「元々、イツは警視庁本部捜査一課の班長を任されるほどの敏腕刑事だった…」

 唐突な過去の暴露で、聞いた新人刑事は驚愕した。

「それは本当ですか!?亜車刑事が本部の捜査一課ハナガタだったって‥。」

「ああ、本当だよ。イツが来た当時、署内ウチの話題は亜車で持ちきりだった。庁本部の凄腕刑事が来たってな。でも、それは事実上のせんだったんだよ。」

「事実上の左遷?」

「実はイツ、庁本部時代に部下アイボウを一人亡くしてるんだ。」

 いきなりの重い話に新人刑事は神妙な面持ちになった。

「"さら刑事殉職事件"は知っているよな?」

「まさか、あの未解決事件の当事者だったんですか?」

「その、まさかだよ。」

 新人刑事が驚くカタワらで、ベテラン刑事は後ろのだなから一冊の分厚い資料を取り出すと机の上に置いた。

「その分厚いファイルは何ですか?」

「これは未解決ファイルだ」

「未解決ファイル?」

「そう、未解決事件。俗に言うコールド・ケースだけを集めた特別な捜査資料ファイル。」

「これって、先輩がすべそろえたんですか?」

「いや、旧友からの誕生日プレゼントだよ。」

「その方は我々と同業者ですか?」

「いやいや。彼は今、大学院で教授をしているよ。確か犯罪心理学の専門家だっけかな。」

「それって、もしかして犯罪プロファイラーじゃないですか?」

「それは、どうだろうな。なぜか彼は、プロファイラーという言葉をきらっているからね。」

 そう言うとベテラン刑事は苦笑いしながら、その未解決ファイルのページを開いた。

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