第4召喚 コイツは一体何者だ!?
魔王が魔法陣に向けて両腕を伸ばす。
今回は魔法陣を挟んで反対側にも、同じ動作をする人物がいる。
「これは一体どういうことっすか……?」
良くぞ聞いてくれたと言わんばかりに、魔王は前髪を片手で搔き上げながら不敵な笑みをこぼす。
「フッ、なに簡単なことさ。この俺の魔力はとてつもなく強大だが、その力の強さゆえ制御が中々に難しい。そこで、魔力の制御に長けている魔女と協力することにしたのだ。
これならば、きっと最強最悪の魔物が召喚出来るに違いない」
自信満々で語る魔王から目を逸らし、ルルはその協力者として呼ばれたアリシアに目を向ける。
「よくこんな茶番に付き合う気になったっすね」
「茶番言うな。てか、お前は今までそう思って一緒にいたのか?」
「そうっすよ」
あっさり即答するルルに二の句が告げなくなる魔王。そこに、アリシアが消え入りそうな小さな声でボソリと口を開く。
「カラスくれると言ったから協力してる」
「カァー」
魔王の肩で一声鳴く一羽の黒い鳥。
「協力じゃなくて、物で釣ってるだけっすね」
「ほっとけ。過程などどうでもいいのだ。
――よし、さっさと召喚するぞ。
我が前に姿を現せ! 最強最悪の異世界の者よッ!」
魔法陣が不気味な黒い光を放つ。天井に向かって黒光が立ち昇り、闇の柱を形成する。しばらくすると、それは何かの形を取るかの様に収束し、魔法陣の中央に異世界の者を召喚した。
「人間……か?」
そこに立っていたのは、身長160センチ程度で、腰まである長い黒髪が良家のお嬢様かと思わせる、そんなごく普通の女子高生だった。格好はどこかの高校の制服、手には学生カバンと、登校中か帰宅中だったようだ。
「あれ、なにこれ? 目の前が真っ暗になったと思ったら、なーんか変なとこに変わってるし。それに、なんかよくわからない普通じゃない人もいるし……?」
見た目とは違って、さっぱりとした口調で話す女子高生。
周囲を見回してその場にいる三人を確認し、その視線をルルのところで止めた。そして、一瞬見失ったかと思う速さで移動すると、ルルを力いっぱい抱きしめた。
「かわいぃぃぃ! 何この可愛い子!? 持って帰りたい!」
「く、苦しいっす。てかお前何者っすか? さっき動きが見えなかったっす」
「淡月 茜だよ。よろしくねっ。
あ、この羽もかわいー。て、あれれ、これ直にくっついてんの?」
いつの間にかルルの背後に回り、腰のあたりから生えた蝙蝠のような羽に手をかける。触って、撫でて、引っ張って、叩いてと、やりたい放題の茜。
「くすぐったいからあんま触るなっす」
「へぇ~。やっぱ本物なんだ、すごいね~」
ルルの言葉にさらに興味が湧いたのか、全く手を止めようとしない。
「こうなったら噛み付いて――」
吸血鬼お得意の噛み付いて下僕にする能力を使うため、ルルは振り向きざまに茜に向かって牙を向ける。
「――あれ!?」
「お、こっちの子は魔女かぁ」
ルルが振り返るとそこにはすでに茜の存在はなく、今度はその標的をアリシアへと変えていた。
「黒いローブにトンガリ帽子。いかにも魔女って感じだねっ」
高いテンションのまま、気になったのかアリシアのローブをガバッとはだける。
そのローブの下は、いつも通り――
「あー、ごめん……魔女じゃなくて痴女だったか」
「――(イラッ)」
悪気もなくテヘッと舌を出す茜に、あからさまな殺気を立てるアリシア。
「――っ!?」
攻撃魔法で痛い目を見せてやろうと茜に向かって手を向けるアリシアだが、茜の姿は目の前で残像を残し消えており、すでにもう一人の人物の前へと移動していた。
「ぅわー、肌黒すぎだね。黒人とか焼いたとかのレベルじゃないね。まっくろ黒助のレベルだよ」
「なんだかよくわからんが、いいことを言われてる気が全くしないな。
この俺はこの城の主にして世界を統べる魔王。口の利き方に気をつけるのだな小娘よ」
やりたい放題の茜を見かねて、脅しの意味も兼ねて低い口調で名乗る魔王。
茜はそれを聞いて数歩後退り、今まで明るかった表情に影を落とした。
「あー、魔王って……。
ごめん。中二病の人ってあたしダメなんだよねー。
だから相手するの無理、ごめんねっ」
両手を合わせて本気で謝る茜に、魔王もアリシアと同じようにこめかみの辺りに血管を浮かばせる。
「意味は分からないが、とんでもない勘違いとかなりバカにされてる気がするぞ。
少々痛い目に合わせやるか」
なんの手振りもなく、魔王は茜に向かって衝撃波を放つ。
だが、放った先にすでに茜の姿はなく、いつの間にか再度ルルの元に移動していた。
「それにしても可愛いなぁ。あたしの妹になってよ~」
頬ずりしながらうっとりとした表情を浮かべる茜。
嫌そうな顔をしながらも、ルルは好機とばかりにタイミングを伺う。
ドガァッと、派手な音を立てて衝撃波により部屋の隅に置かれていた棚が粉砕される。
「えっ、なに今の!?」
他に注意が向いた今がチャンスとばかりに、再度ルルが茜へ噛み付こうと牙を向ける。
「なにこれ!? 自称魔王のあんたがやったの?」
「――くっ」
「その通りだ。てか、自称言うな」
ルルの牙は茜がまたもや瞬時に棚まで移動したことにより空振りし、悔しそうに茜を睨みつける。
魔王は相手の興味を引いたこの瞬間に、普通に受け答えしながら茜へともう一発衝撃波を放つ。今度も動作は一切なし。相手から見れば何か仕掛けてくるとは感じられない。
「お、なにこれ、魔法陣? 本格的~。って、もしかしてあたしこれで召喚されたとか?」
足元の魔法陣に気付き屈む茜の頭上を、虚しく衝撃波が通り過ぎていき壁に当たって消滅する。
「そ、その通りだ……」
二度目も避けられ、魔王がこめかみをピクピクさせながら平然を繕って答える。
「あれ、もうこんな時間じゃん。急いで帰らないと! うちって門限厳しいんだよね―」
こうなったら三人同時攻撃とばかりに、魔王が他の二人にアイコンタクトを投げ、ルルとアリシアは瞬時にそれを察する。
その三人の気配には全く気付かず、茜はその場にすくっと立ち上がる。
「では、淡月 茜、元の世界に帰還します」
茜が魔王たちに向かって敬礼の構えをとってそう言うと、魔法陣から黒い光の柱が立ち上がり、召喚した時の逆の状態が再現される。
「――なっ!」
勝手に発動される召喚魔法に魔王が驚愕の声を上げる。
「また遊びにくるねー」
『二度と来るなっ(す)!!!』
茜の去り際の言葉に、三人は思わず同時にそう叫んでいた。
「結局いじられっぱなしで逃げられたっす」
「私なんか痴女って言われた……」
「それは若干間違いではないがな。
それよりあれは一体何者だったのだ? まさか自力で帰るやつがいるとは思わなかったぞ」
三人は同時に考え込む。
「尋常ではない身のこなしと、魔王様のしょぼい攻撃を余裕で避ける勘の良さを持ってるっす」
「しょぼい言うな。大体、今の台詞にしょぼいは不要だろ」
「――はっ! もしかしたら、あれが勇者……とか?」
なにやら確信めいた憶測に、魔王とルルが同時にアリシアに顔を向ける。
「たしかにあれが敵なら手強いな」
「だけどルルの事を気に入ってるから味方に引き込めるかも」
アリシアの遠慮なしの提案にルルが思わず身震いする。
「だけどあれはかなりウザいっす」
「うん。たしかにウザい」
「かなりウザいな」
どうやら三人の意見はまとまったようだ。
『あれは味方にはいらない(っす)』
――魔王、ルル、アリシアに茜フラグが成立した――
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