第3召喚 初心に返る時

「さて、今日こそ我に相応しい魔物を召喚してみせる」


 魔法陣の前で魔王がバッと両腕を拡げる。


「いきなりっすね……。

 あー、気がついたら1話がやたら長くなってたから、この辺で元に戻そうという魂胆っすね」

「そういうの言っちゃダメだろ。出番なくなるぞ」

「ロリっ娘吸血鬼は萌えるから大丈夫っす」

「自分で言うのか、それ」

 

 相変わらずのマイペース口調のルルだが、馴れてきたのか、魔王も淡々とツッコミを入れるのみだ。

 

「さて、いくぞ。

 我が前に姿を現せ! 全ての破壊と滅亡を望む異世界のモノよ!」


 魔法陣が不気味な黒い光を放つ。天井に向かって黒光が立ち昇り、闇の柱を形成する。しばらくすると、それは何かの形を取るかの様に収束し、魔法陣の中央に異世界のモノを召喚…………するはずだった。


「何も、召喚されない? ――だと」


 今までの感じならば何かしらが現れるそこに、何者の影もなかった。


「望んだモノが出ないことから予想はしていたが、何も召喚されない時もあるのだな……」


 魔王がしみじみと呟く。


「これは失敗っすね」

「失敗というな。何も出なかったと言え」


 自分に絶対の自信を持っているのか、ルルの言葉をしっかり訂正する。


「まぁ、でも――」


 パタンと入り口のドアが閉じる音がする。

 誰か入ってきたのかと魔王はそちらに視線を向けるが、誰の姿もない。

 ルルはそんなことには構わず、続けて口を開く。


「凄い力を持つ魔王様でも」


 顔の横で人差し指を一本立てる。


「手にはいらないものがあるっす」


 続けて、中指。ピースの構えだ。


「類は友を呼ぶって言うっすから」

 

 次に薬指。


「凄い魔物は出ないっす」


 最期に小指を立て、合計で四本の指を立てる。


「お前さらりとひどいこと言うな」


 冷たい目を向ける魔王に対して、ルルは四本の指を前に向かってずいっと突き出す。


「今の四つの言葉に意味があるっす。ヒントは魔王様の立場っすよ」

「いきなり謎かけか……。今に始まったことではないが、お前の奇行は意味が分からないな」


 そうは言いつつも、腕を組み真面目に考え始める魔王。


「ポク……ポク……ポク……チーンっす」

「やかましいわ。変な効果音入れるな。

 だが、今の数秒でわかったぞ。さすが俺様って感じだな」

「さすがナルシスト魔王様っす」

「…………」


 どこかで聞いたような台詞だが、自分で発言してしまった台詞がそれっぽいだけに、魔王は反論できずにルルを睨みながらこめかみをピクリとさせる。


「まぁ、今回はあえて何も言わないでおこう。

 それより、答えはステルスだな。……魔族の王、つまり頭だから、四つの台詞の頭文字を読むわけだ。

 フッ、簡単すぎだな」


 説明を加えながら魔王は自信有りげに語る。


「なら何が召喚されたかも分かったすね?」

「――は?」


 ルルの言葉に間の抜けた声を返す魔王。


「姿が透明な人がさっき部屋を出て行ったっすよ」

「………………え? もしかしてさっきのドアの音か?」

「ちなみに、一度見たスキルは真似できるっす」


 言うが早いか、ルルの体が透けていき、あっという間に見えなくなる。


「おまっ、何する気だ!?」

「ここからはステルス ルルの独壇場っす」


 ガチャリと扉の開く音と、遠ざかっていく足音。

 透明なルルは部屋を飛び出し、どこかへと走り去っていった。


 ポツンと部屋に残された魔王はただ呆然と立ち尽くし、いつものシメ役がいなくなったことに困り果てていた。


「これ、どうやってオチ付けるんだ?」


 ――魔王は召喚者に逃げられた――

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