第8召喚 同業者でちゃいましたけど!?

 ――八度目の召喚。

 

 魔法陣から溢れる光が周囲を包み込み、毎度の事ながらその光が収まるまでは何が召喚されたのか分からない。


 神官達は皆、黙って魔法陣を見つめていた。 


 光が収まると、そこには一人の優雅な女性が姿を現す。

 身に纏った純白のドレスはそこかしこに煌めく宝石が散りばめられ、その女性が高貴な存在であることを示す。流れるような艶やかな金髪の頭部には、ドレスに鏤められたものと同様、豪勢な宝石をふんだんにあしらった冠が煌めいていた。


「お、王女様……?」


 予想外の人物に、疑問の声を上げる神官長。


「あら、ここはどこでしょうか? 別の世界のようですけど……?」


 王女は落ち着いた様子で周囲を見回す。

 

「えぇ、そうですね……。おそらくあなたが今までいたのとは別の世界だと思います。この世界は今魔王に侵略されており、我々は魔王を倒してくれる勇者を召喚しようとしていたのです」


 神官長の説明に王女は、「まぁ」と驚いた様子で口元に手を当てる。


 そして、次の瞬間信じられない事実を口にした――


「私と同じことをしてますのね」


「……………………は?」


 神官長は長い沈黙の後、思わず間の抜けた声を出していた。


「同業者ってやつですね」


 ユリカが分かりやすく言い直す。


「ですね~」


 のんびりとした口調で王女がそれに答える。


 この二人は意外と気が合うのかもしれない。

 

「あのー、ところで元の世界には戻れないんでしょうか? 私も元の世界で勇者様を召喚しないといけないので……」


「あ、あぁ……えぇ、戻せますよ」


「あぁ、よかったです」


 神官長の言葉に手を合わせて喜ぶ王女。

 

「お互い世界を救う為に頑張りましょうね~」


 その言葉を最後に、王女は元の世界へと還っていった――




「まさか同じ立場の人が出てくるとは……」

「さすがに王女様では戦えませんよね……」


 神官長とソウジが同時に溜息をつく。


「競争率たかいなぁ、勇者」

「完全に勇者不足ですねぇ」


 しみじみと呟くルリに、ユリカが同意する。


 巷に溢れる勇者召喚モノに、全て勇者を奪われているのではないか――

 ふと、そんなことを思ってしまう一同であった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る