第9召喚 元凶が増えるとか、何召喚してんの!?
――九度目の召喚。
魔法陣から溢れる光が周囲を包み込み、毎度の事ながらその光が収まるまでは何が召喚されたのか分からない。
神官達は皆、黙って魔法陣を見つめていた。
光が収まると、そこには一人の怪しげな男が姿を現した。
鋭い眼光に整った顔立ち、肌は薄白いがそれとは逆に髪は漆黒の闇のように黒く、左右に伸びた尖った耳が人間で無いことを示している。全身を防護する鎧もまた黒に統一されており、背中に羽織ったマントが風もないのに不気味にはためいていた。
「な、何者……?」
謎の人物に、疑問の声を上げる神官長。
「ここはどこだ? 俺のいた世界とは別の世界のように見えるが……
おい、そこのお前、ここはどこだ!?」
男は周囲を見回した後、神官長に向かい偉そうな口調で問いかける。
「……ここは、あなたが先ほどまでいた世界とは別の世界です。この世界は今魔王に侵略されており、我々は魔王を倒してくれる勇者を召喚しようとしていたのです。
貴方様は我々が、この地に召喚したのです――」
神官長の説明に男は腕を組み、何か考える仕草を取る。
そして、次の瞬間信じられない事実を口にした――
「まさか魔王を倒すために魔王を呼び出すとは、愚かな者共め!」
「……………………は?」
神官長は長い沈黙の後、思わず間の抜けた声を出していた。
「フハハハハハハハハッ! この世界の魔王とやらを倒してやってもいいが、その代わりこの俺がこの世界を支配してくれるわっ!」
全く冗談に聞こえない本気の高笑いに、神官長の顔から血の気が失せる。
「さぁ、待っていろこの世界の魔王よ! この俺が真の支配者ということを思い知らせてくれるわっ!」
魔王は虚空に向かって高らかと叫び、いきなり駆け出した。突進してくる魔王に思わず全員身を引いてしまい、魔王はそのままこの建物の外へと出てしまった。
「まずいですよ! ただでさえ魔王に苦しめられているのに、さらに魔王を召喚してしまうなんて! もし協力でもされたりしたらこの世界は終わりです!」
頭を抱え悲痛な叫びを上げる神官長。
「たしかにまずいですね! 彼は今の魔王の居場所を知りません! ちょっと連れ戻してきます!」
「いや、そういう問題じゃねぇだろ」
論点のズレたユリカにすかさずソウジが突っ込むが、止める間もなく彼女も外に飛び出していってしまった。
「まずいだろ、魔王止めに行くとか!? みんなで止めに行くぞ!」
無茶無謀なユリカを止めるべく、その場にいる全員が一斉に入り口へと駆け出す。
だが、誰かがドアノブに手をかける前に、その入口は開かれた。
「戻りました~」
脳天気な声を上げながら、ユリカがドアをくぐる。
部屋を出てから数秒しか立っていないため、誰もが引き返してきたと思っていた。
「ちょっと抵抗されたので手荒なことしちゃいましたけど」
そう言った彼女の右手には黒いマントが握られており、歩く度に気を失った魔王がズリズリと引きずられていた。反対側の手には、どこで入手したのかトゲ付きの鉄槌、俗にいうモーニングスターが握られている。
「…………………………」
その場にいた殆どの者は、恐怖と驚きにより完全に沈黙していた。
その戦慄の眼差しの先は――言うまでもない。
こうして無事、異世界の魔王は元の世界へと返されたのだった――
「まさか魔王が出てくるとは……」
「でもこれ、もし他の世界がこの世界の魔王を召喚したら、この世界平和になりますよね?」
「ハハハ……ぜひ勇者がたくさんいる世界にでも召喚してもらいたいものだね」
ソウジの言葉に冗談交じりに答えながら、神官長は力なく笑う。
「やっぱユリカなら魔王倒せる」
「いやいや、ただの神官にそんなこと出来るわけ無いでしょ。って、前も似たようなやり取りした気がするんだけど……」
ルリの言葉をユリカがすぐさま否定するが、周囲の皆は大きく頷いている。
「ユリカの巨乳なら魔王もイチコロ」
「それはもっと無理でしょ」
二人の言葉に一同はさらに大きく頷く。
どっちの意見に賛成かは――皆の熱い視線を見れば想像に容易い。
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