第10召喚 来たる! 最強最悪の黒い悪魔
――とうとう十度目の召喚。
魔法陣から溢れる光が周囲を包み込み、毎度の事ながらその光が収まるまでは何が召喚されたのか分からない。
神官達は皆、黙って魔法陣を見つめていた。
光が収まると、そこには只ならぬオーラを放つ未知の生物が姿を現した。
その小さき体は、何人足りとも近づけぬ異様なオーラを全身に纏っていた。
「こ、この生き物は……一体」
謎の生物に、疑問の声を上げる神官長。
得も言えぬ不快感に思わず後ずさっている。
「な、何なんだこの小さいのは…………ぅおっ!」
ソウジがその生物を間近で見ようと近付いたが、すぐさま慌てて飛び退いた。
急に高速で走り出す謎の生物。常人の3倍の速度で走りだすその姿は赤……ではなく、ダークブラウン。メタリックを思わせる外装が照明の光を受けて怪しく光る。
「早いっ! ――――て、こっちこないでっ!」
驚きの声を上げるユリカだが、不規則かつ高速で近付いてくるソレに、慌ててその場から遠ざかる。
「うわぁっ!」
「なんだこいつ!」
謎の生物は部屋の中を縦横無尽に駆け巡り、他の神官たちも同様の反応を示す。
「凍りつきなさい――アース・フリーズ!」
ユリカが地面凍結魔法を使用し、床が水もないのに凍りついていく。彼女の足元からそれは徐々に広がっていき、小さき謎の生物を確実に追い詰める。
「やったっ!」
誰かが声を上げた瞬間だった。
謎の生物の背中が真ん中から縦にパックリと割れ、そこから一対の羽が生まれる。
不気味な風切音を立てながら、ソレは宙を舞い凍結を回避した。
そして、今度は360度縦横無尽に駆け巡る。
「きゃあっ!」
「うわぁ、こっちくんな!」
阿鼻叫喚の地獄絵図にも等しい、逃げ惑い悲鳴を上げる神官達。
闇雲に腕をぶん回す神官長の攻撃を回避し、ソレはある一人の少女に向かって飛んで行く。
――ピトリ
少女のおデコに謎の生物は華麗な着地をかます。
その瞬間、床だけでなくその場の空気が完全に凍りついた。
「エ……」
「お、落ち着けルリ……」
「動いたらどうなるかわからないわ……」
ソウジとユリカで恐る恐る声をかけるが、はたして少女の耳に届いているのか。
「エ……エ…………」
恐怖のあまり声が出ないのか、何度も一文字だけ繰り返すその様は、小さく嗚咽を漏らしているようにも見える。
――が、次の瞬間、ルリは声高らかに力ある言葉を発した。
「エクスプロォオォォォォォォジョン!!!」
魔法の才溢れる幼き少女から放たれたその一撃は、周囲に大爆発を巻き起こし、見事謎の生物を吹き飛ばした。
ついでに、思考停止していた神官たちを巻き込み、召喚施設をも壊滅させたのは言うまでもない――――
「もうこれは無理ですね」
ある意味吹っ切れたのか、瓦礫の山となった施設を見下ろしながら、神官長はキッパリと言った。
「ルリのせいだぞ……」
ソウジがジト目で睨む。
「あの変な生物が悪いし……」
「そうよ。ああいうのは男の子が倒すべきだと思うわ」
ルリの言い訳をすかさずユリカが援護する。
「なんか、いつの間にか俺が悪いみたいになってるし……」
「まぁ、こんな惨状ですし、解散しましょうか。これからのことは私が教皇様に相談しておきますので」
神官長の言葉に一同は戸惑いながらも、一人、また一人とその場を去っていく。
「もういい時間だし、私達も行きましょう」
「うぃ」
「俺も帰るかぁ」
ユリカがルリの手を取って歩き出す。
その横に自然と並んで歩くソウジ。
「それにしても、全然助けてくれる勇者はでませんねぇ」
日の沈みかけた空を見上げながら、神官長は一人ごちる。
そして、瓦礫の山と化した召喚施設に手を合わせ、最後に一人立ち去るのだった。
皆が立ち去った後、瓦礫の隙間を縫って、カサカサと蠢く小さな影が――――
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