第11召喚 異世界に来たらまずは
――十一度目の召喚。
魔法陣から溢れる光が周囲を包み込み、毎度の事ながらその光が収まるまでは何が召喚されたのか分からない。
神官達は皆、黙って魔法陣を見つめる。
光が収まると、そこには一人の学生とおぼしき少年が立っていた。
神官達も馴れてきたのか、出てきた者に対して騒ぎ立てたりはせず、相手の出方を伺っている。
「ここは?」
周囲を見わす少年。周囲を囲む神官に警戒はしているが、いつかの太った男と同様に察するのは早かった。
「これって、まさか異世界召喚ってやつ!?」
急にテンションが上って大きな声を上げる。
その反応を待ってから神官長がいつも通りの台詞を述べる。
「えぇ、そうです。ぜひともあなた様のお力で魔王を倒し、この世界に平和をもたらして頂きたいのです」
「ま、こういうのって、召喚された奴はだいたいチートスキルもってたり、すげぇ最初から強かったりするんだよな。
――ステータス!」
少年の言葉に反応し、目の前に小さな半透明のスクリーンが現れる。
そこには少年の名前や、各種能力値、スキル等が書かれていた。
「あれ? なんか平凡だな……」
自分のステータスを見て訝しげな表情をする少年。
「なにそれ? 初めて見る」
ルリが少年のステータスを覗き込む。他の神官達も興味があるのか、自然と少年の周囲に集まっていた。
「これか? やっぱ異世界と言えばこういうステータス表示が定番だからな。でもって、召喚された奴は大体チートスキルを持ってるんだが……まぁ、俺はあとで覚醒するのかもしれないな」
「ぉー。ユリカもやってみて」
ルリがすぐさまユリカにそう促す。
「さっきと同じように言えばいいのかな? ステータス」
そして、表示されたステータスに全員が絶句した――。
「おぉっ、さすがユリカ。おっぱいの大きさと強さは比例している」
「してません。ていうか、これどうやったら消せるんですか? 見られるの恥ずかしいんですけど?」
ルリの冗談にツッコミつつ、表示されたステータスを消そうと手をかざすが、質量があるわけではないようで、手が何度も画面をすり抜ける。
「ま、まぁ、俺もすぐそれくらいになるし、なによりチートスキルがあるはずだしな! さくっと魔王倒してきてやるぜ!」
やや投げやりな強気発言とともに、少年がテントから外に飛び出ていく。
神官長の指示で、それに一人の神官がお供する。
しばらくしてユリカのステータス画面は勝手に消え、彼女は安堵の息を漏らす。
「な、なぁ……さっき9しかなかった気がするんだが……」
「た、たしかにそうでしたけど……あれがどれくらいの強さなのかはわかりませんよ? まぁ、一般神官の私が勇者様より高いはずはありませんが」
「そ、そうか? なんか一桁か二桁くらい違って見えたんだが……」
「気のせいです」
ソウジの繰り返される指摘に、ユリカは笑顔で返す。
「オールカンスト」
「ルリちゃーん。一言で片付けるのやめてくれる?」
「ユリカ、笑顔こわッ」
さすがのルリも身の危険を感じたのか、慌ててソウジの陰に隠れる。
「とりあえず、これで勇者様一人目ですね~」
ユリカが変わらぬ笑顔でそう締めくくる。
あまりの恐怖に、その場にいた神官達は皆首を縦に振ることしかできなかった。
だが、全員思っていた。やはりユリカが戦ったほうが良いのではないか、と。
――数日後、しばらくしても何の力も目覚めなかった少年は、泣きながら元の世界へと帰っていった。
異世界に召喚されたからといって、誰もがチートスキルで無双したりハーレム作ったり出来るわけではないのだ。
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