第5召喚 ただの◯◯好きでした。

 ――五度目の召喚。

 

 魔法陣から溢れる光が周囲を包み込み、毎度の事ながらその光が収まるまでは何が召喚されたのか分からない。


 度重なる失敗から、全員祈る気持ちで魔法陣を見つめている。 


 光が収まると、そこには一人のスレンダーな男が立っていた。

 これといった特徴はなく、一見普通の好青年に見える。


「おぉっ! 今度こそは普通の人に違いない!」


 喜びの声をあげる神官長。


「一体何事ですかねこれは……」


 召喚された青年は、落ち着いた様子で周囲を見回し、ある一点で視線を止めた。


「――?」


 真正面から見つめられたのはソウジ、ではなくユリカ。

 

 青年はユリカを見た瞬間目を丸く、鼻息を荒くした。


「おおぉぉぉっ! これこそ至高の果実。この手の中に余りある重量感と柔らかな感触、しかしながら無駄に主張しない大きさと整った形! これぞ魅惑の果実!

 男を惑わす禁断の果実かっ!」


 いつの間に移動したのか、熱く語る青年の両手は、完全にユリカの両の胸を鷲掴みにしていた。


「――な、なっ……」


 思考が固まり、ユリカはワナワナと体を震わす。


「――なにすんのよっ! この変態野郎がぁっ!!」


 バシィィィィィッ! と、怒声と共に放たれた平手が景気のいい音を立て、青年は魔法陣の真ん中まで吹き飛ばされる。


 一度も聞いたことがない、ユリカの恐るべき隠された素顔に一同は沈黙する。


 青年は動物の死骸ようにグッタリしたまま、ピクリとも動かなかった。


「――還」


 見るに耐えかねて、神官長が青年を元の世界へ還す。青年は魔法陣の中に吸い込まれるように消え、あたりを静寂だけが支配する。


「はぁ……」


 やっと落ち着いたのか、ユリカは大きくため息を漏らす。


 そんな彼女に、ルリがキャンディを舐めながら一言。


「もうユリカが魔王倒したらいんじゃないの?」


「いやいや、さすがにそれは無理でしょ」


 即座に反論するが、他の全員は内心ルリに同意していた――

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