第6召喚 禁止になるほど危険な男

 ――六度目の召喚。

 

 魔法陣から溢れる光が周囲を包み込み、毎度の事ながらその光が収まるまでは何が召喚されたのか分からない。


 皆の表情には疲労感が見え、ただただ黙って魔法陣を見つめていた。 


 光が収まると、そこには一人の巨体が姿を現す。だが、以前の男の様に筋骨隆々といった感じではなく、全身ブヨブヨといった体である。

 ようはデブということなのだが。


 どこかに出掛けていたのだろうか、背中にはやけに膨らんだリュックと、そこの端から紙を丸めて作られた筒が顔を覗かせていた。


「こ、これは……た、戦えるのか?」


 その体型から、思わず疑問の声を上げる神官長。


「フヒッ。もしかして拙者、異世界召喚されたでござるか!」


 見た目に反して理解は早いデブ男。

 言葉使いがおかしいが、他の世界のことを知らない神官達はそこは疑問には思わない。


「どう見ても無理」


 即答する声の主、ルリの方へと振り向くデブ男。 

 その姿を見た瞬間彼は暴走した。


「ぬほおおぉぉぉっ! コスプレロリっ子でござる!! それは何のキャラでござるか!? 拙者の心にジャストミィトでござる! 

 写真いいでござるかっ!?

 ペロペロしてもいいでござるかっ!?」

 拙者のドーテーもらってほしいでござるっ!?」


 ハァハァと異常なほど息を荒げながら、ものすごい勢いで汗を振りまきルリに迫り寄る。


 背中に寒いものどころではない、完全に虫酸が走るほど生理的に受け付けなかった。


「――ち……近寄るなキモブタぁぁぁぁっ!!!」


 いつもの冷静さなどどこへやら。手で触れるのも嫌なのか、近付くデブ男を足の裏で押し返す。


「ブヒィィィィッ! ――しかし、これは拙者にはご褒美でござる」


 足蹴にされながらも、喜びの表情を見せる。


「死ねっ! 死んでしまえぇぇぇっ!!!」


「そ、そんなにされると拙者、イッてしまいそうでござるぅ!!」


 ルリはデブ男に何度も蹴りを入れながら、魔法陣の中央まで移動する。


「還!!!」


 ルリの怒りの叫びと共に、デブ男は魔法陣の中へとかき消える。


 あまりの出来事に一同呆然。


「あの、ルリ君……それ私の役目なんだけど……」


 恐る恐る口を開く神官長。


 ルリは未だ冷めやらぬ怒りの形相をそちらに向ける。


「キモイ奴禁止!」


 この日から、ルリの判断でキモイ奴と認定された者は、即座に還されることとなった。

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