第5召喚 敵か味方か!? 巨大生物その名は・・・
毎度の事ながら、魔王が魔法陣に向けて両手を伸ばしている。
「今度こそ最強の仲間を召喚するぞ」
「この間のは仲間というより、敵っぽかったっすからね」
「今回はどういうイメージで召喚するのだ?」
前回同様、魔法陣を挟んだ反対側で同じ構えをしたアリシアが魔王に尋ねる。
良くぞ聞いてくれたと言わんばかりに、魔王は前髪を片手で搔き上げながら不敵な笑みをこぼす。
「そうだな。今回はとにかく、巨大で凶悪なイメージでいくぞ!」
「カァー」
まるで返事をするかのように、アリシアの肩にいるカラスが一声鳴く。
この間の手伝いでもらったカラスだ。
「ま、今回は三人っすからね」
ルルの言葉に一瞬クエスチョンマークを浮かべた魔王だが、いつも言動がおかしいためさして気にせず、いつも通り召喚を始める。
「今回こそ最強の下僕を召喚する!
さぁ、我が前に姿を現せ! その巨大なる体躯にて世界を破壊し尽くす最強最悪の異世界のモノよッ!」
魔法陣が不気味な黒い光を放つ。天井に向かって黒光が立ち昇り、闇の柱を形成する。しばらくすると、それは何かの形を取るかの様に収束し、魔法陣の中央に異世界の者を召喚する――はずだった。
「な、なんだこれはっ!」
魔王が思わず驚愕の声を上げる。
それもそのはず、闇の柱は収束するのでなく、膨張して何かの形を取ろうとしていたからだ。
「やっぱ賢者がいると違うっすね」
「なにっ? どこにいるんだ、そんな奴」
「この間いた透明な奴っすよ。姿を消す魔法が使えるくらい優秀な賢者らしいっす。だから今回頼んで手伝ってもらったっすよ」
さすがの魔王もこれには唖然とした。
前に召喚した透明な者については気になっていたが、何かあればその時捕らえればいいと思っていた。まさか、放置した結果こんなことになろうとは、さすがに予想できない。だが、ルルが関わっている以上予測できないのはいつものことだと、即座に頭を切り替える。
「その賢者とやらはどこにいる?」
まだそこらへんにいるのだろうと、キョロキョロ周囲を見回す魔王。
やはり姿を消しているのか、見えるのはルルとアリシアだけで、肝心の人物は全く見えない。
「危険を察知してもう逃げたっす」
「またしても逃げたのか……ん? 危険、だと?」
魔王の目の前で、黒い光の柱は部屋の天井に到達するほどになっていた。
それでもなお大きさを増していくそれは、天井という障害物に阻まれ、上に伸びれなくなった分横に広がり始める。
「これはまずいぞ!」
「逃げるっす」
「緊急非常口」
アリシアが攻撃魔法で部屋の壁を破壊し、三人はそこから外へと脱出する。
黒い光の何かは部屋を埋め尽くしてもまだ止まらず、部屋の壁を破壊しさらに膨張していく。それはもはや召喚部屋に留まらない。部屋というよりも、城そのものを破壊してそれは無尽蔵に大きさを増していく。
「どこまで大きくなるんだこれは」
すでに半壊状態にある魔王城を眺めながら魔王が呆然と呟く。
「ぱねぇっす」
ルルが背中の羽根を可愛らしく、パタパタと動かしながらその隣に並んでいる。
「これはすごい。何が出てくるのか楽しみ」
ルルの隣でアリシアが魔法の箒に腰を掛けながら、興味津々な表情で黒い光の何かを見つめている。
魔王城を半壊させたそれは、高さ100メートル当たりまで行ったところで膨張を止めた。そして、今度は巨大な手や足、頭といった明確な輪郭を取り始める。最後にその生物のお尻のような部分から、根本から先端に向けて徐々に細くなる尻尾のような輪郭が出来上がり、召喚されたそれはついにその姿を現した。
「こ、これは!?」
「なんとも表現し難いっす」
「むしろ細かく表現するとヤバイ、かも」
召喚されたその巨大な生物は、天を震わすかのような咆哮を上げると、巨大な口を大きく開く。その生物の背中に淡い光が灯った様に見えた次の瞬間、大き開かれた口から青白い光の奔流が迸り、ここより遙か先にある山が一瞬にして消し飛んだ。
「おー。すごい破壊力っすね」
「戦力としては十分」
吹き飛んだ山を眺め、ルルとアリシアは呑気に感心する。
「たしかに戦力にはなるかもしれないが……」
二人とは違い、あまりの威力に魔王は肩を小さく震わせる。だが、それは恐怖からではない。魔王の視線は吹き飛んだ山ではなく、瓦礫の山になりつつある自分の城に向いていた。
「俺の城をこんなにしたことは許さん!」
激しい怒声を上げると、魔王は巨大な生物の眼前に向かって飛んでいく。
「魔王様激おこっす」
「自分の城があんなにされたらさすがに怒る」
ルルとアリシアは魔王を眺めながらそう言うと、巻き込まれまいと魔王から距離を取るように離れていく。
「ハァッ!」
掛け声と同時に、魔力の刃を何十発とその生物に打ち込むが、固い鱗のような皮膚に弾かれ全くダメージを与えられなかった。
「これは久しぶりに本気で戦う必要がありそうだな」
意味ありげに口の端を釣り上げ、魔王は自分の中の魔力を高めていく。高められた魔力は黒いオーラとなって全身に纏わり付き、大地が怒りに呼応するかのごとく鳴動する。
「魔王様をここまで本気にするなんて……。さすが国民的怪獣ゴ◯ラっす」
ルルが巨大生物の頭部を見上げる。
「◯ジラなんて召喚できるんだな。自在しないものだと思っていたのだが」
アリシアもルルの隣に並んで同じように見上げる。
「お前ら伏せるならせめて合わせろ! 完全にバレてんじゃねぇかよ!」
「魔王様、前っす」
思わず二人にツッコむ魔王の正面に、再び巨大生物が放った先程と同じ青白い光線が迫る。
「甘いッ!」
すかさず魔法の障壁を展開しそれを受け止める。しかし、受け止めるまでは出来ても消し去ることはできず、あさっての方向へ投げ飛ばすような手振りでそれを弾き飛ばす。
遥か彼方でまたしても山が一つ消滅した。
「不意打ちとはやってくれるじゃないか」
魔王が巨大接物と正面から対峙する。
「ゴジ◯ VS 魔王様。乞うご期待っす」
「2◯17年夏頃公開予定」
魔王たちとは逆方向の、誰もいないはずの方角に顔を向けてよくわからない宣伝をする二人。
今まさに熾烈な戦いを繰り広げようという魔王の足元で、無残にも耐えきれなくなった魔王城が瓦礫の山と化したのだった――
本当は難しい異世界召喚 彩無 涼鈴 @tenmakouryuu
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