外伝:魔王と吸血姫と何か
第1召喚 人ならざる者の召喚術
「人間どもめ、小賢しいマネを」
黒いローブに身を包んだ男が、目元にかかる前髪を搔き上げながら、独り言のように吐き捨てる。
ローブから覗く黒い皮膚が、彼が普通の人間でないこと表している。
普通こんな格好でいればどこでも目立つ変質者だが、彼の立場とこの場所がそれを正当化させている。
この男が、この禍々しくも巨大かつ豪華な城の王なのだ。
「あー、魔王様こんなとこにいたんすか」
とても一国の主に対して言う言葉じゃない口調で、一人の少女が声をかける。
一見、ゴシックロリータを思わせる可愛い服に身を包んでいるが、肌が死人の様に白く、瞳は血のように紅く、背中には黒き一対の蝙蝠のような羽を生やしている。
こちらもどう見ても人間ではない。
「何してるんすか?」
「ふむ。空気を読まぬ吸血娘よ。まずはその何の核たる部分である、その魔法陣から足を退けろ」
「お? なんすかこれ? 落書きっすか?」
「退けろと言ったのに、足で擦るな。マジで消炭にするゾ」
魔王は怒りのあまり手の中に黒い炎を生み出す。
「怒りっぽいっすね~。カルシウム足りてないっすよ?」
「こいつ……まぁいい、せっかく来たのだしいいものを見せてやろう」
一瞬本気で消そうかとも悩んだが、言われた通り短気を見せるのもシャクなので、手を握り炎を消して話題を無理やり変える。
「おぉ、1等のサマージャンボ宝くじっすか?」
「そんなん俺が欲しいわ」
「まぁ、意外に当たっても虚しいだけだったっすよ……」
「えっ……なに? お前当たったの?」
「そんなことより、いいものって何っすか?」
吸血少女のさり気ない一言に食いつく魔王だが、今度は彼女の方に話題を逸らされる。
「お前、自分で脱線させといて、ここぞというとこで話戻すのかよ……。
……まぁ、いい。これ以上脱線したら話が進まないからな」
未だに魔法陣の上にいる吸血少女を強引に退かし、いかにもこれから説明すると言わんばかりに咳払いを一つ。
「どうやら最近、人間共の神官が俺を倒そうと勇者をこの世界とは異なる世界、異世界より召喚しているらしい。それはつまり、この世界には俺を倒せる者はいなくとも、異世界にはいるということだと俺は考えている。
だが逆に考えるとだ、魔物に関しても同じこと言えるのではないか? 相手がそういう手段で戦力を強化するなら、こちらも同じ手段で戦力を強化してやろうと考えたのだ。
しかもある噂によると、人を人とも思わず殺戮兵器を操り、一瞬にして何十万という人間を葬りさる戦争とやらを行う恐ろしい世界があるらしい。もしそれを手に入れれば、この世界は完全に俺の物となる!」
思わず高笑いでもしそうな勢いで魔王は高らかと叫ぶ。
吸血少女は部屋の隅であくびを一つ。
そして、魔王の支配についてこう付け加える。
「まぁ、でも魔王様やさしいから世界は何も変わんないっすけどね」
「ちょっ、おま……そういうこといきなりバラすなよ。みんなの残虐非道な魔王のイメージが崩れるだろ」
「みんなが誰かわからないっすけど……ご町内の奥様方からは、魔王様は独身なのかと次から次へと聞いてきて、ちょー人気っすよ」
「そ、そうか……」
なんだかちょっと照れくさそうに答える魔王。
「鬱陶しいからその度に消してるっす」
「ダメだろ消したらっ! なんてことすんだよ! ご町内の繋がりは大事しないといけないんだぞ!」
「そんなこといいから早くソレの説明するっす」
魔王の戯言を完全に無視して魔法陣を指差す。
「元はと言えば脱線の原因は全部お前だろうが……。
まぁ、いい……とにかく、これを使えば奴らと同じように異世界から下僕を召喚できるというわけだ。しかも奴らのように人数は必要ない。この俺の魔力を持ってすれば――――」
「俺一人で十分だ。っすね」
「決め台詞取るのやめてくれる?」
「生き甲斐だから無理っす」
「お前の生き甲斐小さいな……。
って、ほんとに全然進まんから――
そろそろ初召喚と行こうかっ!」
そう宣言し、またしても前髪を搔き上げるポーズを付ける。
「呪文はやっぱりエロイムエッサ――――」
「ストォーーーーーーープ! それ言っちゃダメなやつだからな!!」
「……残念」
悄げ込む吸血少女に、魔王は額の変な冷や汗を拭う。
「呪文など必要ないのだよ。
この俺、魔王には長ったらしい呪文など必要ない! 一言で十分だ!」
「ごくり……」
魔法陣の前で両手を大きく広げる魔王に、吸血少女がわざとらしく唾を飲む振りをする。
そして、魔王は力ある言葉を放つ――
「さぁ、我が前に姿を現せ! 異世界の強き者よ!」
魔法陣が不気味な黒い光を放つ。天井に向かって黒光が立ち昇り、闇の柱を形成する。しばらくすると、それは何かの形を取るかの様に収束し、魔法陣の中央に異世界のモノを召喚した。
「こ、これは――」
召喚されたものに動揺を隠せない魔王。
それは、自分の存在を認識させるかのように一声鳴いた。
「カァ、カァ――」
「なんで鳥なんだよ……」
落ち込む魔王に代わり、吸血少女が最後に締めの決め台詞を放つ。
「カラス、ゲットだぜっ! っす」
――魔王はカラスを手に入れた――
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