本当は難しい異世界召喚

彩無 涼鈴

第0召喚 召喚の仕方

 だだっ広い部屋の真ん中に巨大な魔法陣。


 それを囲うように12人の神官が等間隔に並んでいる。


「やり方は簡単だ。全員で中央の魔法陣に魔力を注ぎこみ、十分になったところで私が『開』と唱えれば別世界との門が開き、力ある勇者がこちらの世界に召喚される」


 時計で言う12時の方向にいる、この中で地位と年齢が一番高い神官長が皆に向かって説明する。


「はい、質問です」


 3時の方向にいる若い男の神官が手を挙げる。


「なんでしょう、ソウジ君」


「召喚は必ず成功するのでしょうか?」


 質問の内容に思わず周囲がどよめく。


「良い質問だね。魔力不足など、私達に不調がなければ失敗はないだろう」


 周囲から安堵の息が漏れる。


「ただ、必ずしも私達の求める勇者が現れるとは限らないね。どんな人物を召喚すればいいのかも分からない以上、そこは神のみぞ知るといったところだよ」


 そう言って神官長は肩をすくめる。


「私も質問いいですか?」


 次に手を上げたのは、6時の方向、神官長の向かい側に立つ若い女性の神官。


「どうぞ、ユリカ君」


「もし召喚者が非協力的で、元の世界に帰りたいと言ってきた場合はどうするんですか?」


「そうだね、たしかにそれはあり得る。この世界の現状、魔王を倒すのに協力してもらえるよう懇切丁寧にお願いはするつもりだ。だが、それでも帰りたいと言うのならば、魔法陣の上に乗せた状態で『還』と唱えれば元の世界に戻す事が可能だ」


「説明的な台詞有難うございます」


 ユリカは神官長に丁寧に頭を下げる。


「――はい」

 

 9時の方向にいる小柄な少女の神官が手を上げる。

 年齢も身長もこの中では一番下だが、魔力は神官長のそれに匹敵する。


「何かなルリ君」


「お菓子食べたい」


「それは後にしてくれるかな?」


 子供をあやすように優しい笑顔を浮かべる神官長。

 それとは逆にルリは冷たい視線を投げつける。


「じゃぁ帰る」


「わかった! 後で誰かに持ってこさせるよ」


「うぃ」 


 ルリを引き止めたところで、周囲は静寂に包まれた。


「他に何も無ければ、召喚を始める」


 室内に緊張の色が走る。


 神官長が両手を魔法陣に向けると、他の全員も同じような動作を取った。


 ――一体どんなモノが召喚されるのか?


 魔法陣が魔力を吸収し、眩い光を放つ状態になったところで、神官長が声を高らかに叫んだ。


「――開!!!」

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