二話~試合~03
五郎は扉の外に出た。
土を敷き詰めたような液晶設定にされた電子スクリーンを敷いた対戦場を取り囲んで、見下ろすように階段状の観客席がある。
客席は満員なのに、なぜか歓声が聞こえなかった。
五郎は、内心、はぁ~と思った。また、いつものことか・・・
実は五郎、最下位なのだ。
ネット上での大会予備選では、上位の1000位以内に入りこんではいるが、この大会が始まって以来全戦全敗なので、信用がないのだ。
各界の人間が注目するくらい、大真面目な大会になったことで、決して遊び感覚ではできないのだ。
周囲の漂う無関心な雰囲気に、少し居心地が悪くなった。
五郎が居心地の悪さを感じていると、
次の瞬間。
急に観客たちがざわめき始めた。
熱のこもった選手紹介とそれに伴い世界中の有名企業のロゴが表示された電子画面が先を争う様に、ハチドリの様に飛んでいた。
某有名IT企業からスポーツの企業、ファッションブランドまであらゆる名前がめまぐるしく現れた。
五郎はそれを茫然と上の空で見ていた。
この大会にスポンサーが付いていることは知っているが、これは何かが違った。
選手紹介の前に、スポンサーの紹介をするのはおかしいと、なぜなら、最初から電光掲示されているはずだからだ、ここのドームの観客席のすぐ近くの掲示板でいくつも回っている企業名やロゴのように・・・
―と五郎は思った。
そして、物思いにふけっていると
「わあああああああ」と割れんばかりの歓声が湧き上がった。
一瞬何事か理解できなかったが、どうやら相手側の選手が出てきたようだ。
この歓声からすれば、きっと上位の選手なのだろう
五郎は、前から出てくる選手をややふわりとした感覚で見ていた。
そして、拾った言葉に耳を疑った。
(い、今・・・日渡あたるって言わなかった?)
相手選手紹介を上の空で聞いていたので、よくわからなかったが、確かに、“日渡 日渡あたる”と―
すーと悪寒が稲妻のように一気に背筋を駆け抜けた。
いや、もっと凄い衝撃だ・・・
氷と塩がたっぷり入った冷や水を浴びたように、シャキンと一瞬にして目が冴えた・・・!!
素晴らしい、目覚ましに起こされた五郎は、真っ正気になった。
ぞくぞくとして、目の前にピントを合わせると、向かいには、目にも鮮やかなサーモンピンクのコントロールグローブをはめた、セミロングよりも若干長い黒髪のすらっとしたモデル体型の若い女性がそこにいた。
真っ白くてマシュマロみたいな肌。すらりと伸びた手足。大きな青い目、すっと抜けるように通った鼻筋。ぷっくりとみずみずしい赤ピンクの唇。小顔で愛くるしい雰囲気を纏った顔つき。その顔を、見慣れている気がした。だが・・・
スタイルも美貌もいいが、今はその面影見る影もない。
冷たいオーラを放ち、メガネ型のウェラブルコンピュータを通してでも、射った矢のごとく鋭利で強烈な視線が、こっちに猛スピードで放たれてきた。
ただ仕留めてやるっていう恐ろしいまでの執着した意思が向かってくるのだ。
視線を正面から受け取ると、含まれた信念で目が痛くなってくる。
誰もがきっと彼女の空気に後ずさりするかもしれないくらいの、冷視を超えて、冷た過ぎて熱く感じるほどの執念の混じる気迫が向かってくる。
先までとは一変するドーム内。
観客のボルテージは最高潮で、もうすさまじい彼女を声援する数々が聞こえる。
彼女こそが、全戦無敗の女王 世界ランク1位 日渡あたる (ひわたり あたる)《歳やその他のプロフィールは公式ホームページにも公表されていないため謎》
そして、現コードマスターなのだ。
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