二話~試合~ 06
五郎は、ファイティングポーズを取り、
攻撃しようと構え。
先んじたと思ったが次の瞬間。絶句した。
日渡あたるは、冷たい表情を張り付かせたまま、ピクリとも動かずじっとしていたが、おむろに、目を少し細めた。
瞳の虹彩が青く輝き美しく点滅するライトの様に光った。
何をしたのか理解できなかったが、何かが起きたのは明確だった。
‘テレサ’が動く―。
七色のオーラを放つ‘テレサ’は、身の丈よりも長い槍を身構えると大きく振りかぶり、一瞬にしてさっといなくなった。
いなくなったように見えたのだと後に気付いた。
舞った‘テレサ’が、写影ようにその場に焼きついた。
フラッシュみたいなその一瞬―
それはまるで、舞踊でも踊っているかのような戦い方だった。
美しく振り回される槍―。
繊細さの中にやはり勇ましさを感じる。
その柔らかくもあり流麗な槍さばきにドームがしんと静まり返った。
槍が風を切る音がとても鋭利で何重にも重なり重みになって鼓膜を震わし、とても痛々しくて耳を塞ぎたくなる。近づく熱い風が、地獄でじっくり煮詰められたかのようにひりひりと重く吹きつけてくる。そんな狂気に似た気迫なのに凄く綺麗で美しいオーラが漂いそれを払拭して周囲に華麗さを印象づける。
きっと、どこの戦い方よりも、もっとも美しいだろう―
そして―・・・
恍惚として呆けたように見とれていると、はっとすると、首を振る。
何をやっているのだろう・・・
五郎は一泊遅れて、(見とれてる場合じゃない)
‘プレシア’を慌てて動かそうとした、が、もう遅かった。
‘テレサ’の槍は正確に‘プレシア’を捉えて、あっという間に身構えた大剣を砕き、振り回しながら回転させいた刃の餌食にした。
それが、1分もかからないあっと言う間の出来事だった。
「えっ?」
五郎は目を見開いた。何かの衝撃に体を持って行かれ、目の前が真っ白になった。
地面の感触を感じ、慌てて起きると、倒れいく、‘プレシア’が見えた。
煙が晴れた対戦場の床は大きくえぐれ、槍の刃によって粉砕されたのだろうか、鋭利にくぼんだ周りがささくれ立っていた。
まるで大きなエネルギーの塊がそこを通ったようだった。
異様な有様に放心した。
すっと、実体化されていた‘プレシア’が消える―
一瞬の沈黙の後。
「勝者 日渡あたる」
審判の声がこだまして、地鳴りのような観客の歓声が響いた。
“WIN”と相手側の電光掲示板には、示されていた。
自分はK.O. 負けしたのだ。
負けるとデバイスは消えるようになっていた。
震えがおさまらなかった。
五郎は、青い顔をしたままその場に膝をついて震え過ぎて硬直していた。
―もっとも恐ろしい戦い方でもあるだろう。
最初、日渡あたる目が青く輝いたなと思ったら、もう‘テレサ’が目の前で、気が付いたら、自分は‘プレシア’を襲う、撃砕の衝撃波とその槍を振り回す余波の嵐の何重になった重みのある風が、突風になって襲ったのだ。
五郎は、吹き飛ばされてすっ飛び、起き上ったときには‘プレシア’がもうズタボロになって倒れていく姿を見たのだ。
槍の斬劇は、精密で一つ一つに重みがあって、攻撃が重なるごとに、深く鋭く重くなっていくのだ。
そしてその有り余った破壊力は、耐久性に優れた対戦場の床を鋭利に抉ったのだ。
あのスピードであのパワー・・・
最強としか言えなかった。
もはや、目の前に居る‘テレサ’は、美しい女神でも何でもない。まるで、可憐な聖女のふりをしてその気になった相手を知らないうちに一飲みにしてしまう魔女に見えた。
戦いを終えた日渡日渡あたるは、さっきみたいな殺気だった感じの迫きは影を潜め、無表情になっていた。
感情はまるで無で、相手を倒したのにもかかわらず一切何の興味もなく、怖いほど落ち着いて冷静だった。
それを固唾を呑んで見守っていると、突然、機械的に顔を上げると姿勢を正し、右手を横にぴんと伸ばして縮めるという行為をした。
『えっ?』と一瞬何をするのかと不安な疑問符を表情で作ったが、次の瞬間
‘テレサ’が一度、お辞儀をすると虹色の光に全体が包まれ始め、やがて消えたのだ。
これが、‘テレサ’の撤退の合図なんだ。漠然と思って、恐怖する。
(なんだ、こいつ・・・)(まるで・・・)
心に思っていることだけなのに、その後が絶句する。それと同時に・・・
『‘テレサ’の動きは機敏かつ精密で、その速さは、他のデバイスおも凌駕する。』
急に頭の中でそんな声がこだました。
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