二話~試合~ 05
と・・・
話題を変えたが・・・
ブッルッ!!
身震いする五郎
恐ろしい敵意が向けられた視線は、まだこっちに放たれているため、悪寒で無視ができない。
ふと、思考が解けて、視線ががっちりと合う。
黒く流れる女性らしい髪に、かわいくて綺麗な顔立ちなのに、まるで怨念にでも取りつかれたような、暗く漆黒の雰囲気を纏い、でも視線には熱く殺意にも似たような闘志が向けられていた。
絶対に、放さないってことか・・・
(はああ・・・)五郎はもう、降参だった。
お願いだから、そんなに敵意を向けるな。止めてくれ~~~~
五郎は内心、愕然とした。よりもよって、最初からこんなやつに当たってしまうとは―
(いきなり“日渡あたる”とはきついぜ・・・)
五郎は、部が最悪に悪いことで、ついに視線を離した。
解説が『橋輪谷 五郎 耐えれず目をそらした!!』と揶揄した気がしたが、今はそんな言葉はどうでもよかった。
滅入りそうになって散らばってしまった気持ちを集めて、日渡あたるを再度見直す。
肉食恐竜に出くわしたときの気持ち(どういう気持ちか知らない)になって完全に恐怖に気圧されてうんざりはしていたが、ふと、こういう思考が浮上した。
大会で上位20位以上になると、シード権があって、500位以下との対決を免除されているのではないのか?
こいつは、本当は、上位者なのだから最初からの(1000位から)対決は免除されているはずなのに? そう疑問を感じたが、ぶるぶると首を振って雑念を振り払った。
(いかん、いかん、考えている暇はない)(今、目の前にいる相手に集中しなくては―)
顔を擦ると気を取り直して、右手を翳すようにやや上に向けた。
すると手のひらに実体化した電子画面が現れその液晶に、逆さにした“F”の文字が現れた。
右側にあった黒い円形の装置が輝いて、彼のデバイス、‘プレシア’が出てきた。
彼女は一度宙を舞うと、着地してすっと身構える。
さっきまではいくらかしっかりとした動きを見せていた気がしたが、構えた瞬間から内気で弱々しさが、拭えない雰囲気を纏っていた。
創造主が自信のないせいなのか、彼のデバイスにもそんな自信の無さが滲み出てしまっている。
少女を彷彿とさせられるシルエットに、金髪の短い髪に、顔を覆う仮面。上半身は黒い甲冑をつけ右手に大剣を構えて、鉄のスカートを穿き、太ももまでの皮のような素材のブーツをはいていた。
これがデバイスなのだ。
「・・・・・・」
目の前に現れた五郎のデバイスにも、日渡あたるはまったく表情を変えず、ノーリアクションを貫いていた。
プレシアが出てくると、日渡あたるも自分のデバイスを呼ぶために構えた。
日渡あたるが、手の甲を口元に当てて、やや右斜め上に向かって投げキスした。輝いたピンクの光が尾を引いて、空中に吸い込まれていく。
「おお~」という一体感のある歓声がこだました。
すると、また同じように日渡あたる側にある黒い装置が輝いた。
一固まりの虹色の美しい玉状のものが現れ、空中でそれが弾けると、きらきらと星のような輝いた粒子が辺りに流星群のように降り注いだ。その中から現れたのは、輝くばかりに美しく色気と気品にあふれた女性型のデバイス、‘テレサ’だった。
「流石だ~、美の女神!!」とあちらこちらから、声が飛び交う。
見事といえるボディーラインに、甲冑をモチーフにした胸を強調したセクシィーな中世の騎士を彷彿させる頑丈そうだが、キラキラ輝く銀色の防護ジャケットに、細く華奢に生える腕にキラキラとした強固な手の甲まで覆うプロテクターがはめられている。すらっとした曲線を描く美脚にはこれまた銀色の太ももまであるブーツ。流れるような金色の長い髪。頭にカチューシャのようにシルバーできた頭を守る、兜をしていた。
顔は前髪と下半分の銀色のマスクに隠れて見えない。
全体的に光の粒を纏って虹色に輝いていた。
右手には、太く丈夫そうで長くて透き通るようなシルバーの上下に刃がついた槍をもっていた。
細くしなやかな腕に不釣り合いな装備だった。
美しさの中にも勇ましく気高いものを秘めた女性を表しているんだと感じた。
(これが美の女神かぁ~)思わず内心驚嘆の声が出る。
さっと羽一枚でも降ってきたかのように体重を感じさせない動きで、テレサが降り立ち、身構える。
‘テレサ’は通常の選手のデバイスよりも小柄にできていたが、それでも、この美しさ輝いたオーラ 神話がふさわしそうだ・・・
こんな、プログラミング能力の違いで、こうも、変わるなんて―
五郎は、日渡あたると対戦することなんてなかったので、知らなかった。
‘テレサ’はこんなにも美しく、そして何よりも誰よりも恐ろしいなんて・・・
日渡あたると対戦した選手はみんな、口をそろえて言う。
テレサの美貌に魅了され、テレサの恐ろしさを、身を持って知らされると―
五郎は今までずっと、その言葉が理解できなかった。大げさに言っていて、脚色した話だと―
さっきまで、両者の紹介と二人に関する話をしていた解説員が静かになる。
見た目が派手な審判の掛け声がかかる。
「それでは、二人ともREADY?」
それを聞くと、五郎は気持ちを切り替えた。相手の空気に飲まれるな、自分はここにいる!!
その掛け声を聞いて日渡あたるの目がクッとさらに険しさを増した気がした。
もちろん、まだロックオンされたままだった・・・
もし、ルールで相手方の選手に対しての攻撃が禁止されていなければ、襲ってきそうなほどの凄みがあった。
すっと、向き合った二人。
そして、
「FIGHT!!」
呼び声がかかった。
そして、五郎は日渡日渡あたるの恐ろしさを身を持って知ることになる。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます