~廊下の二人~

二人は、また控え室に戻るために廊下を並んで歩いている。

無言な二人、不意に何の前触れもなく梅夫が口を開く。

「なぁ~、オレあの時、どう答えてあげたらいいか分からなかった・・・」

そう遣る瀬無さをつぶやくと肩を落とす。

五郎は梅夫を見る。

 改めてみると、梅夫は、ちょっと長めの髪を、オールバックに上下にハーフ分けして頭を止めて、T シャツにだぼだぼと履いた七分丈ジーパンに、踝までの派手な靴下とスニーカーを履いている。

あまり大きくはないが、平均的な男性の身長、170センチメートル強で細身であるが、肩幅は広くむらのない優秀で上質な筋肉が全身にむらなく均等についていた。

見た目は、ちょっとそこらでたむろしている面白ヤンキー見たいだが、性格は真面目で、情に熱い所があるのだ。

「う~ん。そうだな。俺もそうだ」と相槌を打つと

「はあ?」梅夫が顔を上げて、

「何が、『俺もそうだ』だ。もっとカッコいい言葉がなかったのかよ?」と詰め寄ってきた。

少し、熱過ぎてうるさいこともある。

「・・・妻葺が大事だし、俺だって考えたよ。だから言葉を探したんだよ。でもあんなにつらそうにしていたからそっとしてあげたほうがいいって思ったんだ。梅夫だって何にも言わなかったじゃなか。」「だから言わなかったし、伝えなかった。」「それに、あの時俺も無力な自分だって思ったから・・・」と―あれこれ言って

「俺は、今のお前の言葉に賛同して意見を言ったまでだ」と反論すると

 しばらく沈黙した後、

 「・・・理屈で言うんじゃなくてさっ」

「お前さ、もうちょっと(相手の)気持ち考えろよ」と咎める。

 「~~~~~」

そう言われてしまえば、五郎は何も言えなくなる。

相手の気持ちは十分理解しているつもりだが、どうしても理屈っぽくなってしまうのは、性分だから仕方がないことだった。

俯く五郎をうかがい見ながら

「女に嫌われんぞー」

苦言を言われてさらに落ち込んだ様子を見せる五郎を無視するように、梅夫は後頭部に手を組むとわざとらしく口笛を吹きながら、先に歩いて行ってしまった。 

五郎は思う。

よく考えてみれば、俺って悪い?そいう悪いと言われるタイプだったのかもしれない。

そのせいで誰かを傷つけている可能性が出てきた。でも、これは元々のものだから治したくても直せるものじゃない。じゃあ、どうしたら直せるか―・・・。いやもしや、今考えていることも理屈だったら?

そんなことを考えていたら・・・

ふと、周りを見渡したら、梅夫がいなかった。

はっとして、辺りをもう一度見渡したら、前方の彼方に梅夫の姿があった。

慌てて追いかける・・・

「おい、ちょっと待てよ!」

梅夫にやっと追い付くと、少し怒って梅夫の肩に手を置いて、振り向かせようとして、梅夫の顔を見たら、梅夫は切なそうな顔をしてやりきれない気持ちで俯いていた。

五郎は、怒りを納めると彼の隣につく

「オレ、何も言えなかったよ。」「でも、何よりも許せないのは、仲間が落ち込んでいるのに、逃げるようにその場から離れたことだ」と悄然として言う。

「仕方がないことだよ。あの時、『一人にしてくれ』と言われてしまったんだから、俺たちには彼に何もしてあげられないってことだ。だってあのまま居たって彼に迷惑かけるだけかもしれないし、助けてあげられないんじゃ居たって意味なし―」

ふーと、梅夫は、溜息を吐く。どうやら、また五郎が理屈っぽいことをこねだしたので、また理屈っぽいこと言っていると、呆れたようだった。

どうしても直らない自分の口調に呆れかえられてしまい、五郎は憮然として押し黙った。

「・・・・・・」

両者しばらく沈黙の後

最初に、口を開いたのは梅夫だった。

「やっぱり、オレ、“日渡あたる”だけは許せね~~」

その憎しみが籠もった声を聞いて、五郎も、『俺も同意見だ。』と思った。でも、また喋り出すと、また理屈と言われかねないので黙って肯く。が・・・

「あいつは、」

耐えきれず言うと

「あいつ、俺の大事な友達を負傷させた挙句、棄権にさせてランク落とすなんてな~」

「うん?」

梅夫はいきなりなんだと思い目を瞬かせて疑問を嘆いたが、五郎は自分世界に入ったのか、自論を繰り広げる。

(うるさ過ぎるので割愛・・・)

「だってそうじゃないか、あいつは無慈悲だ。人を人と思っていない。」と熱弁をふるう人のように言って、そして、「あいつは危険な奴だ!」

それを聞いた梅夫は、まあ、その前の言葉はともかく、『あいつは危険な奴』に賛同する。

「オレもそう思うよ」低くつぶやくように言う。

「俺らのどっちが、奴を倒そう!」

「・・・」それは賛同しなかった、それはみんな何年も思っていることで、別に今誓わなくても、もう十分過ぎるくらいに誓い合ったものだった。

どっちかっていうと五郎は人と少しずれた思考の持ち主だ。そのため、人に誤解されたり、呆れ返られたりするのだ。

「・・・」

しばらく二人は黙り合った。

 梅夫は五郎に呆れ。

 五郎は何やら空回ったことに気付き、恥ずかしくなって顔を真っ赤にして背けた。

内心、なんで俺は呆れ返られるんだ!と恥ずかしさと少しは賛同してくれたっていいじゃなかという気持ちで憤っていたが、逆切れぽい感じだったので口にはしなかった。

「なぁ」また五郎が口を開く。

「また理屈になりそうだから、何も言わないで聞くだけ聞いてくれ」下手(したて)に出たつもりでそう冒頭に言ってから話しだす。

「聡には早く元気なってもらいたい・・・」

それを聞いて梅夫はふと顔を上げる。

「今はそれだけでいいと思うよ」

「うん・・・そだな・・・」

「早く元気なって、奴を倒して・・・敵を討たなきゃな!」

「降格されても、また上がればいい。俺は聡を応援するぞ!」

「おいっ、お調子者のばか野郎。」

 突然、梅夫に咎められた。

「何かいけないことでも言ったのかよ?」理不尽に感じて、不平を言うと

「お前に、そう慰められるとよけい惨めになるぜ」

「何だよ。」「こういう俺だから言えることなんだよ」と不貞腐れてそっぽを向く

しばらくして、何にも言ってこなくなり、しかも何やら視線を感じるので、そっちを見ると梅夫がまじまじと五郎の顔を見詰めていた。

「・・・何だよ?」

「全戦全敗の1000位ヘタレの橋輪谷 五郎に、そんなことを心配されてる、妻葺 聡はかわいそうだ」と梅夫は言う。

「お前こそ、バカ野郎だ。俺は今、友達として言っているんだよ!」と尽かさず侵害だと言うばかりに顔をしかめた。

「ふ~ん。」

悪びれもせずに、わざとらしい声を出して、またさっきの後頭部に手を当てるという態勢をとり、また歩き出した。

五郎は、肩を落とす。

友達とはいえ、いつもコードの事になると小馬鹿にされて、お前に語ってほしくないみたいなる。

本当に理不尽だと思った。でも、みんなそれだけ真剣なのも事実なのだ。

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