~弱さと強さ~
梅夫と五郎は、さっきの控室に戻っていた。
「はぁ~」
二人は溜息をつく。
隣同士でベンチに座り、俯いた。
しばらくの沈黙の後
梅夫が口を開く。
「なあ、これから、どおする?」
「うん?」
唐突に聞くので、下を向いて考えた。
「さっきの事は差し引いて・・・楽に考えてくれ」と梅夫はなぜかそう言う。
「どうしてだ」思わず五郎は聞く
「俺、いいこと思いついたんだ。少し、荒療治になるけどこれならいいかなって浮かんだことがあるんだ」
「何だ?」
「こういうのはどうだ。あいつの大好きな女子アナ一人を、週末の飲み会のメンバーに加えるのさ」
「おお、いいなっ、それ。」なんだかワクワクしてきてしまった。
「お前が、テーションが上がってどうするんだよ。」尽かさず指摘を受ける。
「だって、な~」と言葉を濁し、ワクワクを隠したがやっぱりなんだか嬉しくなる。
「男子が一人溢れずにすんだな」
「よ~し、別名、情報屋って言われている俺のつてを使って、参加できる女子アナを探すぞ!」そうやたらと、ハイテーションになって、ヤル気満々で画面を開くと電子画面のキーボードを叩きだした。
「モンキーにメールを送るぞ」と言って送信した。
モンキーとは、正式名はモンキー藤田。世界ランク27位の選手で、武器を一切使わない素手だけの守りと攻撃が得意なデバイスを所持している。
モンキー藤田は、選手名で、本名は藤田レーン。
「あいつ、まだ対戦している途中だろう?」そう心配して聞くと
梅夫は
「Aブロックの対戦はもう終わったよ」と確信したように言う
そのやや低い声を聞きても、どこからそんな根拠があるか分からない五郎は、相手に迷惑ではないかと思ったが、次の瞬間、返信が届いた。
着信音がした。五郎がびっくりして梅夫を見ると
「おお、モンキー藤田から、メールが届いたぜ!」
覗きこむとそこには、かなりテーション高めのメール内容が載っていた。
{メールの内容
Aブロックの対戦終わったよん~♪
初戦で負けちゃいました、てへ❤
まだまだ修行が足りませんな~( 一一)(苦笑い爆)
飲み会の件O~K!! 了解いたしました。最高の女子アナを探します~(^0_0^)
以下省略
P.S 近くに居た すぐるも誘っちゃいましたーーー!!!}
「え!?」と二人
「男子一人溢れるじゃん!」と五郎が叫ぶ。
梅夫が、改行の先を徐々に降ろしていくと
{ もちろん、(*^^)v
その分の埋め合わせはさせてもらいますので(^^ゞ
期待して待っててくださーい~(●^o^●)}
と書いてあった。
どこまでも、明るく真っ直ぐでポジティブな藤田であった。
あまりの明るさに少しの間。脱帽して言葉を失う二人。
「・・・・・・」
「ワアオ~、すげーな・・・藤田・・・」五郎が思わず間抜けた声を出す。
梅夫も長年の付き合いだったが、驚きを隠せないくらい唖然とし、頷いた。
このまま、停滞して、あと一回でも連敗が続けば、ランクが落ちるという崖っぷちにありながら、それでも焦る様子を見せず。どこまでも笑顔が見え隠れする内容のメールは驚嘆してしまう。
本当の本人の気持ちは理解できないが、このハイテンションのメールは最高にすごすぎた。
「オレらも、明るい気持ちで頑張るか?」
梅夫が聞いてきた。
「ああ、そうだな。」
意見に賛同する。
「そうだよな。」「さっきは、馬鹿にしてごめんな。」
「お前の崖っぷちさは、半端ないのに、オレ、小さいことを気にし過ぎた」
少々、棘のある言葉だが、謝っているのには違いがないので、肯く。
「オレ、聡を心配する傍ら、自分の心配もしてて、なんかもう、ダブルで気持ちが荒れてたんだ」本音を吐露し、頭を抱え、少々すっきりした表情を作った。
「おお、いろいろ俺もあるしな。」
「何が?」
つっこまれ、五郎は、下を向いた。
「いや・・・」それだけ言うと、何か恥ずかしいことでも言ったかのように、何かむずむずしたものが、湧きあがってきた。
そして、言い足りないことを口にする。
「・・・俺だって、俺自身が凄く弱いことくらい分かっているよ」
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