~最終決戦 日渡あたる~
「ふー」と日渡 日渡あたるは深呼吸をした。頭に上げていた最新型のメガネ型ウェラブルコンピュータをかける。
今の彼女の感情には深い思いは特にない。考えていることが一つ、二つ、浮かんでは消えしている。
闘いになると一切の感情が彼女の頭脳から排除され、一点の強い闘志しか残らなくなる。
勝ち進まないといけないのだ。今はそれしか念頭にない。
キッと鋭く前を向く、大きな壁の向こう。 例え、どんな挑戦者が待っていようとも、強者がいようとも。今はどんな対戦相手も敵にしか見えない。
彼女は、この大会の中で最強なのだ。他のすべての選手は、実質的彼女の挑戦者になる。全員が彼女を打ち負かそうとしている。戦った全員が彼女を恐れる。
別に自分が最強とも、すごいやつとも思っていない。
ただ勝ちたい 勝ち続けたい、その一心。
自分をここまで支えてくれた人がいる。助けてくれた人がいる。だから、わたしはその人たちに、自分が活躍しているところを見せてあげたい。落ち込んだり、辛い顔はきっと哀しむから、だから、自分を表現できる場所がここなら精一杯やるのみ。
そして、重い鉄の扉が開き。ドームの光が差し込んでいく
~観客席~
「ゴーゴー 日渡あたる ゴーゴー」
「ゴーゴー 日渡あたる❤」と観客席で、愉快にうれしそうに手作りのポンポンを持った手で手拍子をして、飛び跳ねる。チアガールの服を着た、茶がった黒髪のツインテールの巻き髪の女子が、エールを送る。
「みーこ。はしゃぎ過ぎ~」やや呆れたように注意するのは、小笠原 夏子(おがさわら なつこ)という、日渡あたると同級生だった、背の高いポニーテールの女の子が隣で宥めるように、苦笑いをしていた。
みーこ。というあだ名で呼ばれた。みーここと。阿達 美優(あだち みゆう)は、そんなのお構いなしに、明るい笑顔で振り返りずいずいと顔を近づけてきて言う。
「だって、このためにチアの洋服買ったし~。そ・れ・に、こっちのほうが、日渡あたるに応援届くでしょ❤」と指を立てる。
「・・・うん」と夏子は、引き気味に分かったという。
こういう風に言い寄られれば、自分が降参したほうがいいという感じだった。
ややこしくしたくないのだろう。
「がはははは」もう一人、その一部始終を見て、面白くなって豪快に笑い、腕組みをした、金髪のショートカットの女性が夏子の隣にいた。
いかにも肝が据わった感のある。ヤンキー風の女性だった。
「なぁに~?アンナさん」と美優は左隣りの女性を見る。
彼女は、わざとこう言う。
「あいつ今朝、顎痛いって言っていたから、大丈夫かなぁ~」と大げさに困った顔をする。
日渡あたるが顎を痛くしたのは、実はアンナのせいだった。
今朝、日渡あたるがアンナを起こそうとしてベッドに近づいたらいつもの寝相悪い&寝起きも悪いせいで、蹴りを入れられ、いつもだったら瞬時に避けることができたはずだったが、なぜか対応が鈍くなって、もろに食らってしまい、飛ばされた拍子にアンナの部屋の壁に横顔を打ちすえて打撲をしたのだ。
アンナは、その時寝ぼけていて覚えていず、日渡あたるが顎が痛いって言っていたのは自分のせいだなんて思っていなかった。
「いや、大丈夫でしょ!」と夏子は流石に場違いな発言だと思って言い返した。
「ふふふふっ」アンナは含みを持たせて笑う。
陽気な美優は、それを聞くと何を思ったのか叫ぶ。
「日渡あたる~。顎関節症~。がんばれー!!!」
あんまりにも空気が読めていない声援に、叫びが降り注がれた下のほうの観客が、驚いて振り返った。
夏子は慌てて美優がこれ以上言わないように止めようと美優に手を差しのべながら、ふとアンナを見咎めたら、驚いたように目を丸くはしていたが、でも、制止する気はない。その場を楽しんでいた。
本来は、それがアンナの役目なのだが・・・
そして、声援と歓声が一気に、爆音になりドーム全体が震えた。
夏子は一瞬だけ気後れを覚えたが、はっとして、左側の選手の入り口を見つめた。
すると、一人の冷たい雰囲気を持つ女性が入ってくるところだった。
(戦うときはいつも雰囲気が変わる・・・)夏子はそう思った。あのまるで誰も寄せ付けず何色に染まらないあのオーラは、逆に自分自身を追い詰めているようにも夏子にはそう見えた。
それは裏を返せば決意の表れでもあった。負けたくないという一点の強い意志―。
「私たち三人組~、日渡あたる応援少女隊~❤」と美優が騒ぐ
右側からは、同じくらいの冷たい冷めた雰囲気のレンズ二枚型のウェラブルコンピュータをかけた少女のように可愛らしい風貌を持った青年が、入ってきた。
『さぁ~、ここからがこの大会最大の見せ場!頂上決せーん!!』『無敗のコードマスター日渡 日渡あたると、鮮血の吸血鬼、すぐる・コナーとの一騎打ち~』『最後に栄光に輝くのは、美のカリスマ、テレサか、それとも冷酷な殺戮者、ペインブラッドか―。』
その掛け声に、反応した。人々が口々に言う。
「もちろん、日渡あたるだー!」
「もちろん、すぐるだー!」
ほとんどの観客が日渡あたるに期待していた。八割がその声で、すぐるを応援している声は二割くらいしか聞こえなかった。
夏子は思った。この声援の肩にかかるプレッシャーはすごく重いだろうと
「もちろん、日渡あたるに決まっている」と隣にいた中年の男性が何故か一人で意気込んでいる。
『そこにいるみんな、見逃すな!目を開いて一瞬、一秒をその脳裏に焼きつけろー!!!!』
そして、『fight!』声がかかった。
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