~大会通路にて~
そこは、『コードチャンピオンシップ』春の大会が開催されているドームの隣の建物内のとある廊下。
「いやー良かった、良かった。」
「また、ずいぶんと盛り上がっていましたね~」
男性二人が、笑いながら話をして、廊下を歩いている。
どうやら、上司と部下の関係のようだった。
「これで、また、スポンサーとの関係もより良いものになるな」上機嫌の上司は笑顔で部下に言う。
「はいっ!これも無敗の女王のお陰です」と嬉しそうに話す若い男性の部下
「無敗の女王、日渡あたるか・・・」と歳をとった上司が、含みを持たすようにひとり言のように口の中でその言葉を言って顎に手を当てる。
「彼女が、この大会に参加してから、世界の注目もまた高まり、かつてないものへと変わってきています。」
若い部下の声に
『ああ』という様に重くうなずく
「日渡あたるは、もはや神の領域に入った逸材と、言えるでしょう」と絶賛する。
部下が、日渡あたるをほめちぎる横で、上司はなにか、晴れない顔をしていた。
そして、いきなり切り出した。
「ところで、スーくん。優勝のファイトマネーをさげろと、企業側からの圧力(こうぎ)があったというのは本当かね?」
静かな問いかけだったが、唐突であまりに衝撃的な言葉だった。
それを聞いた、部下は一人で盛り上がっていたテンションを一気に下げ、申し訳なさそうに苦く答える。
「ええ、本当のようです・・・」
「また、随分と思いきったことに踏み込んだものだな」と苦笑い混じりにそう冗談めかすかのように呟いた。
「・・・多く貰い過ぎているから、自分たちのオファーには答えないんだと思い込んで、勘違いしている企業もいるようで・・・」と首を縮めて弱々しく答える。
なぜ彼が、恐縮するのか分からないが、彼は申し訳なさそうにする。
「まぁ、確かに、お金にまつわるいろんな事情が、この大会にはつきものだ」「(デバイスを構成している)コードを企業側に有料で公開、提供することも、もはやステータスみたいなものになっているからな・・・」と漏らす。
「ええ」と低く相槌を打つ
「・・・一度、あまりにも強いので、チート(不正行為)ではないか噂になったので、探りを入れましたが、一切そういうこともなく―。ルール上の問題もありませんでした」
「日渡あたるの場合、初期化状態という基本プログラムでデバイスにあまりデータを加えてないまま、使っているようで―」と言いにくそうに語尾を濁す。
「他のファイターたちが使っているような小細工や特徴的な技術とかもあまり使っておらず、そのー・・・素そのものなんです・・・」
「だから公開を拒否して、自分に付いているスポンサーにしか技術提供しないという噂ですが―」
「ははっ、彼女には噂ばかりが、付いて回る様だな・・・」
「はい、本人の口数が少ないって言うのもあるからなんでしょう・・・」
「う~ん、謎多きコードマスターか」と唸って難しい顔をして何か考え込む。
上司は黙ったまま、考え始めた。
何か考え込んで黙っている重い空気に耐えれず、なんとか場を和ませることができないだろうかと、部下は余談を思わず口にする。
「・・・橋輪谷 五郎の場合は・・・別の意味で、チートだと思われているみたいですけど・・・」
それを聞いた上司は大笑いした。
部下は、この場では言わなくていいことを言ってしまったと口を塞ぎ、慌てて取り消そうとして、言葉を取り繕うとしようとした時、初老の上司は、気にしなくていいというように手を振ると、さっきの雰囲気に戻り口を開いた。
「まぁ、日渡あたるの場合。そういう(チート)こともなく、あの強さなら単にデバイスの操縦技術が優れているとしか考えられないな」
さっき大笑いらしたのにも関わらず少しも重い声色は変わらず、真剣になって手を顎に当てて唸る。
「ええ、ですが、それだけじゃ裏付けできないのですよ」と彼は食い下がるように明るいやや強調する声で言った。
「ほほう?それは随分と自信を持っているようだね~」と顔上げて疑う様に興味を見せた。
「だって、私は一度、彼女の基本ソースプログラムを閲覧していますから」となぜか、それを強調すると、目が妙な光をたたえた。
―基本のコードが他のそれと全く異なり、もの凄く異質で特殊―
上司は、「はぁん?」とびっくりして顔の大きな疑問符を浮かべて聞き返した。
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