~ファーストフード店~
そして、大会が終わり、その熱が覚めやまないあの三人
美優 夏子 アンナは、お昼を兼ねてファーストフード店に立ち寄り、大会の話に花を咲かせていた。
窓側の通りが見える場所の席で三人が座っておしゃべりしている。
「あーサイコーだったね~❤」と嬉しそうにポテトをつまむのは、阿達 美優
「ねぇ、すごかったね!いつもは日渡あたるがあっという間に片付けちゃうのに―」夏子こと、佐藤 夏子が興奮気味に言う。
「いや、あいつ本気出してなかったから~」とアンナが言う
戦いは接戦だった。
互いに一歩も譲らず、いなしてかわしが続いていたが、それでも日渡あたるは、相手の攻撃を一度も食らわず、少しだけ、力の加減をしただけで、相手に決定的なダメージを与え勝ったのだ。
「そういえばそうだよね。むしろ、すぐる君のほうが必死だったてゆーか、結構力入ってたもんね~」と美優はポテトを向けて話す。
「すぐるは後半、押されてたし」とアンナが冷静に言う。
「凄いよね。綺麗な戦い方、終わらせ方―!!」
「確かに、日渡あたるの戦い方はそうだけど、本気の試合で、観客を楽しませるためにエンターテイナーになれるなんて凄いね」と夏子はそう率直な気持ちで呟いた、言ったのちに嫌味に取れる発言かなと思って、後悔した。
が、黙った二人の空気は同調するようなものだった。
考え込むようにすると、「確かにね~」と二人はハモる。
いきなりだったのでびっくりした。
「確かに、魅せるに関しては、かなり高度だよ。鮮麗されているよね」
「それをわざわざ魅せつけて、魅せているみたいな感じじゃないのが神業」
「計算尽くされたものなのか、はたまた自然に魅せているのか?謎だよね」と夏子が口をはさむ。
「そうだよね。知りたいけど教えてくなそーな、話題に出したらNGなのかな?」
「あの綺麗なホーム教えてほしい~」
「あいつ、嘘つかないし、ちゃんと教えてくれるかもね~?」と首を傾けて冗談を挟む
「ホント!?」とアンナの言葉に興奮して身を乗り出す二人
軽い冗談を言ったつもりだったが、二人は真剣に話題に食いついてきた。
二人の視線を受けたアンナは「多分―」と自信なさそうに答えて、少し考えるように間を開けると
「いや、やっぱ、分かんない・・・」と言葉を濁した。
「じゃ、NG?」と寂しそうにする美優
「だから、分かんないって・・・」と少し迷惑そうにそう答える。
「・・・婉曲ならいいんじゃない?」と夏子がフォローする。
「じゃ、こんど飲み会で婉曲で聞く~」となぜか膨れてそう言った。
そういうと、尽かさずアンナが、突っ込みを入れる。
「えー?お前行くんだー。あんだけ、ごねてたのにィー」と茶化した。
「あの時は、日渡あたるが行かないなら、行かないって思ってたのー」と怒って言う。
どうやらすぐにむきになるようだ。
「日渡あたるー…、"あたる"来るの?」と夏子が美優に聞く。
「うん、来るよ」
「へぇ~」と意外な話でも聞たように驚く。
「『へぇ~』って何が?」と美優は気になってそう聞く。
「いや」と気に障ることを言ってしまったと慌てて口をつぐんでから、言い訳のように「日渡あたるって、人が集まる場所とか苦手そうに見えたんだけど、そうじゃないんだって―」と俯き加減に言葉を濁す。
「えっ、明るいのに?」そう言って美優はキョトンとする。
「ああ~」とアンナが理解したように肯くと、「まあ、昔はね。今は平気だよ・・・」と語尾を濁す。
「そうなんだ」
自分の記憶している部分と今の状況が違うので、それらを整理するように肯いた。
(やっぱり、時と場合は流れたし、日渡あたる自身も変わったのか・・・)
夏子はぼんやりと思ったのだ。
同級生の頃は、それなりにみんなと仲良くしていたが、そのうちにコードマスターのことでなのか、ただ単に態度からなのか…男子からやっかまれて、いじめられていた。
だけど、助けてあげられなくて、ようやく見つけて今ここにきて、それでも全然、私は支えになっていない・・・。
一人、暗くなっていると、不意に声がかかる。
「どうしたの?」
はっと顔を上げると、美優が顔を覗き込んでいた。
「あっ!ごめん」「何でもないよ!」慌ててごまかすと、美優は「あっ!隠し事してるっ!!」と指をさして怒った。
意外と、空気が読めないわりには敏感な人で、些細な人の思いを察するのだ。
だけど、そんな美優にアンナが肩を組んで思いっきり上半身の体重を預けると、「はいっ、美優。それ以上の詮索はいけませんよ~」「人はいろんなことを心の中に持っているんだよ。自分からいいたくなったら言いだすから、その時までそっとしてあげなよ」そう宥めてくれた。
夏子は、内心よかったと胸をなでおろした、だって美優にすべてを話さないといけなくなっちゃうから、もう変わってしまったことなのに、今更、過去を蒸し返してしまうから、話したくないのが本音だった。
だって、それを掘り起こされて傷付くのは日渡あたるだから、せめて私の秘めた思いは隠し通さないと―。
それから、やいのやいのと時間が流れていく。
外は、雲がゆっくりと流れる青い空だった。
夏子が何気なく、ファーストフード店の天井から吊るされた電子画面を見詰めると、早くも、コード大会の結果が速報で伝えられていた。
10位から1位までのテロップが縦一列に表示されアナウンサーが試合の結果を解説している中、口々に呟くようにヒソヒソと話す人達の話題は、、やはり日渡あたる。現コードマスターのことが多かった。
期待しているや不動のチャンピオンなんてあり得ない、ドーピングかはたまた他の反則をしているじゃ?との言いがかりとも取れるような意見等々が話題に上がり、小さな討論会が至るところで繰り広げられている。
<それでは、日渡あたる選手のインタビューです>
女性のアナウンサーが簡単な原稿を読み終えると、画面が切り替わり、特設のインタビュー席で、日渡あたるが、対戦後のインタビューに答えている中継が流れた。
画面上に日渡あたるが出てくると、みんな更に前のめりになって、食い入るように、画面を見詰め、聞き耳を立てた。
小さな討論会も一旦中断されて、みんな日渡あたるに注目する。
文字通り、釘付けだった。
日渡あたるの注目度はひときわ高い。
日渡あたるは春の今大会もその圧倒的な力で優勝し、コードマスターの称号を防衛した。
ジュニア時代から一度も負けたことがいなく、春夏秋、そして冬に行われる大会、4大会すべてで優勝し、さらに連勝記録を継続更新し続けている。現在、無敗の女王。
凛と姿勢を正し、まじめで堅実な表情で受け答えをしている日渡あたるを見て、目の前で画面を見ていたアンナがクスッと笑った。
背中が一瞬、ビクッと動くのが見えて、(もう~アンナさん!)と思うのだった。
だって、日渡あたるは真剣にインタビューに答えているだけなのに、その姿勢を笑うなんて失礼だと思ったのだ。
確かに日渡あたるは、インタビューやテレビに出るときは、クールビューティに見えるが、実は意外といじられキャラ。
コードファイターの傍ら、芸能界の仕事をしている。
それが本来の日渡あたるだった。
日渡あたるの夢は、コードマスターになることとモデルになることだったから・・・。夏子は一人そう思った。
夏子や日渡あたるの周りの知り合いは全員。日渡あたる、"あたる"の本来の姿を知っている。
普段は鈴を転がすような高い声で持ち前の天然ボケで周りを巻き込む面白い人格だが、インタビューやコードファイターの時は、
凛として、クールに見える姿。だけど、少し影がありミステリアスな雰囲気を帯びている。
それが、ファンやマスコミ、画面上の日渡あたるしか知らないものたちの知る姿だった。
気がつくとそのファーストフード店にいる人々、全員がその画面に釘付けだった。
改めて思ったのだ。このコードの世界は本当に、誰も彼もが関心があり、世界規模に凄いもなのだと・・・
私にも、コードの力があれば少しは、"あたる"のお手伝いができたのに・・・
夏子は、一人。歯痒さを感じたのだった。
コードファイター 石川夏帆 @Kaho-isikawa
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
フォローしてこの作品の続きを読もう
ユーザー登録すれば作品や作者をフォローして、更新や新作情報を受け取れます。コードファイターの最新話を見逃さないよう今すぐカクヨムにユーザー登録しましょう。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
関連小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます