一話 01

ポタ・・・ポタ・・・ポタ・・・

―何の音?

眠りと夢の境目の気配に、そんな音が響く。

ポタ、ポタ、ポタ・・・

―雨音の仕業だろか?

雨樋の継ぎ目から漏れてゆっくりと落ちる

滴の音、そんなような音がする。

周囲からなのか、それとも頭の中で聞こえるのか・・・分からないが聞こえてくる。

何だか体中が何かに包まれて、浮遊している気分させられてくる。

― 一体なんだろう?

正体不明の気配に体と心が一気に支配され、なんだか落ち着かない。

決して、良い気分にさせてくれるわけではなく、ただ心許無くて不安で、恐怖を帯びた気配を運んでくる・・・

まだ、自分自身は目を閉ざしている状態だ。

正体不明のまま、漂うだけなら誰にでもできることだが、何も分からないままだとここがリアルなのか夢なのか曖昧になってしまいそこに置いて行かれそうで意識をしっかり保たないとと焦燥感が気持ちを押し上げていく、でも目を開くと見たくないものを見てしまうのでないかと、激しいトラウマに似た怯えも同時にあった。それでも、何も見ないで漂うよりは何かを見て地に足をつけたほうがましだと、目を開くことにした。

パッチ!

そこは漆黒の暗闇だった。 


彼女は、物恐ろしいと感じながらそこに立っていた。

たぶん魔物なんて来やしないのに、なぜかその場から逃れたくて仕方がなかった。

何かに喰われるんじゃないのかとか、この世界に魂が置き去りされて生還できないんじゃないのかとか、そんな恐怖が襲いかかってきたのだ。

得体のしれない恐怖と一人だということもあって、竦みと恐怖と何故か込み上げて来る我知れずの罪悪感との重なりで、胸が締め付けられていき、鼓動が急に早くなり、耳元で潮騒の音をたてて頭を打っていた。

何処に視野を開いたのか、夢なのか現実なのか―。そんな推測は関係なさそうだった。

今見ているもの自体がリアル帯び、そこに居る人格こそ自分と定義されていた・・・

軽い頭痛を感じながら、落着かない景色を見ていた。

さっきまで、浮き上がって横になって寝ている感覚があったのに、目を開いた瞬間からそれは別物に変わった。

すべてが、現実を感じるのだ。

視界は鮮明になり色をしっかりととらえ、それが余計に夢との境目を失わしていく

ポタ、ポタ・・・

近くで、その水面を叩く澄んだ滴の音がするので、洞窟にでもいるかのような錯覚を受けたが、そうではないと確信していた。

よく聞くとその水滴も何処かに溜まっていくような音ではないようで、一体何なのか、何処かへと吸い込まれるように、一定の音色を保ち、響かせ聞かせていた。

見回そうと試みたが、体はそこに固定され、顔は真正面だけを向けるようになっていた。

その空間に高く澄みきったように響きだしたその音は、しばらく流れていくと、聞き慣れるほどに変わる。

まだ何処から響き聞こえるのか分からないが、高く澄んだ音色のままに、何処かの地面に落ちて、溜まっていく音に変化していく。

その音に耳を傾けると、どんどん滴が粒の大きさが増していく気がした。

更に、音に耳を傾けているとだんだんと粘り気のあるものへと変わっていく。

不意に感じた不自然さに、徐々に怖さがさっきよりも増していき、鼓動が最高潮に波打ち早くなり、血液が逆流していく、ひどく目眩がする。

地に足が付いている気がしているのに、なぜか、その場に縛られて押さえつけられ誰かに支配を受けている気がしたからだ。

なぜ、そんな気持ちにさせるのか全く分からなかったが、自分がいけないことをして知らぬ間に罪を逃れたような罪悪感の重さに似ていたのだ。

何処からともなく滴の音がする、何処から落ちているのだろう、分からないまま、暗がりの目の前を見つめていた。

仄暗い世界で、でも暗色の赤でうっすらと

闇を照らす恐ろしい気配―。

とても怖い気がした。それを察した瞬間、自覚した感じていた凝縮された最大級の恐怖が押し寄せてきた。

―逃げたい!!見たくない!!

それは、たんに暗いからの怖さではない。地獄の入口のように、恐ろしいほどの罪償いをさせようとする、目の前に空いた魔物の口のようだった。

何か風のようで、感情が籠もった空気が吹きつけてく。

地獄の沙汰を受けた罪人が橋を渡らず、己の罪を見つめようとせずに、怖がって入ることを拒んで、それを許すまいとしている神のように吹きつけるのだ、感情が。ただ許さないと―

わたしはそんなに悪ことをしたのか? 覚えがない―

一瞬身震いしたが、もう遅いようだ。

目を閉じることも許さず、自ら戻ることも許さないように、気が付いたら手足・・・体が動かない。ぴったりとそこら中の闇に締め付けられ、よく見ていろ、逃げるな、と拘束された。

いやだ・・・一瞬感情がよぎったが、次の瞬間―ガツンと後頭部を叩かれた衝撃の後、中に推し進められた!! 

悲鳴を上げようとしたが声が出ない。助けを求めたくても心の叫びのように自分自身の体の中で反響して、外に届かない

口と目を開けたまま、絶叫マシーンに乗せられたように、激しい加速に乗り、目の前を駆け抜ける風に耐え。先が拓け、目の前が白く輝いた。

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