7月28日は何の日ですか?

「は~じ~め~」


 お、おう? 生徒会室へやって来ると了華りょうかが机に突っ伏していた。

 ……何があったよ、幼馴染様。


「ど、どったの? お嬢様?」


 その姿があまりに意外で、思わず変な言葉遣いになってしまう。

 いつも変だって? ほっとけ。

 で、訊くと了華は机に沈んだままの状態で話し始める。


「今日の記念日がですね~」

「お、おう。なんか色々あった気がするが……」

「なんですけどねぇ~」

「記念日部としては良い事じゃないか。沢山あるなら」

「…………」


 そう言う俺に顔を向けると、半眼でじと~っと睨んでくる幼馴染様。

 おい、俺は何か変な事を言ったか?

 てか、止めろよその目! なんか心がムズムズするから!!

 

「いや、マジでどうしたお嬢様?」 


 了華の目付きに妙な気持ちを覚えつつ、再度問い掛ける。

 すると幼馴染様は溜め息混じりに話し始めた。


「今日はですね確かに色々あるんです……でもどれも面白くないんです……」

「いや、面白くないって具体的には何があんだよ?」

「【世界肝炎デー】、【地名の日】、【菜っ葉の日】、【なにわの日】とかです」

「うん、数はあるな。しかしお嬢様的には楽しくないと」

「そうですはじめ。何を祝います? 【菜っ葉の日】とか野菜でも食べますか?」


 と、今にも鼻で笑いそうな感じで訊いてくる了華。

 それでも別にいいんじゃ……てか、似た事を過去散々やった気がするんだが。

 そんな俺の心が読めたのか再び盛大に溜め息を吐く幼馴染様。

 ……め、面倒臭過ぎるぞ、お嬢様。


「あぁ~、ならもう部活解散するか? 多分今後もこんな日あるし」


 なので、そんな提案をしてみる。

 丁度いい機会だ。これで解散してくれれば、俺は残りの夏休みを有意義に使える。

 まだまだ高校最後の夏を謳歌することができる。


「!! だ、ダメです! それはダメですはじめ!」


 俺のその言葉に慌てて机から立ち上がり、提案を否定する幼馴染様。

 

「あ? 別にいいじゃねーか。お嬢様が飽きたんならやる意味ねーだろう?」


 しかし、俺は追撃を仕掛ける。それに目を見開く了華。

 俺の夏休みを取り返せるかもしれない貴重なチャンスだ。無駄にはしない。

 まぁ、ここ数日間が楽しくなかったかと訊かれれば、そんな事は無いんだが……。

 だが、それはそれ、これはこれ、だ。

 これ以上、幼馴染様の気紛れに振り回される訳にはいかねーんだよ。


「でも、でもですね、はじめ……ダメです。嫌なんです」


 けれど、俯くお嬢様から返ってくる言葉はそんな意味のない言葉ばかり……。


「訳が分からんな……じゃあ、俺はもう帰るわ。また新学期に会おうな、お嬢様」


 溜め息混じりにそう言い、俺は踵を返す。

 さーて、街にでも行って遊ぶかぁ~。


「待って! 待って下さい!」


 生徒会室のドアへ手を掛けた瞬間、部屋に響くお嬢様の悲痛な声。

 振り返れば、了華は涙目だった……。

 ……幼馴染様よ? それ位ではじめさんは動揺しないぜ?


「何だよ、お嬢様? なんか文句でもあるか?」

 

 だから直球で問い返す。理由なくこれ以上付き合うのは無理だ。

 

「行かないで下さい……やっと、やっとはじめとまた遊べるようになったのに……」

「あ? 今は部活の話をしてるんだが?」

「……だって、だってはじめは! こういった理由を付けないと私と遊んでくれないじゃないですか!」

「…………」

はじめが一緒に遊んでくれたのは小学校まででした……。中学からは私を少しずつ避け始めて……。高校になったら学校行事以外では会ってもくれません」

「…………」

「私は! 私はただはじめと遊びたいんです……また子供の時みたいに……。いつも人知れず助けてくれている事は知っています……でも、それだけじゃ嫌なんです。もっと私と遊んで下さい……お願いですはじめ……」


 言い終えた了華の瞳から流れる一滴の涙。それがゆっくりと床に落ち、弾ける。

 その音が聞こえてしまいそうなぐらい、今の生徒会室は静寂に包まれていた。

 

 ……なんだよ……なんだよ、その理由は。

 言えばいーじゃねーか……普通に遊びたいって……なのに、なのに……。

 いや、そんな隙さへ与えずに避け続けていたのは俺か……。

 はぁ~結局、幼馴染様相手だと悪者はいつも俺だな……まぁ、仕方ねーか。


 俺は溜め息混じりに了華に近付くと、その頭を軽くポンポンとしてやる。

 それにきょとんとして俺を見上げる幼馴染様。

 

「あー、何だ。悪かったよお嬢様、部活辞めるとか言って……」

「……はじめ……」

「これからもよろしく頼むな、お嬢様」

「……はい! はじめ! これからも楽しく遊びましょう!」


 そう言って思わずといった様子で抱き付いて来るお嬢様。

 はぁ~……なんだかなぁ……結局、了華から逃げ損ねちまった。

 どうにも俺の夏休みは完全消滅したっぽいな、これは……。

 まぁ、幼馴染様のお願いだ……仕方ねーか。

 あぁーあ、お嬢様、マジ面倒!


 

 【部活メモ】

  7月28日

 【世界肝炎デー】、【地名の日】、【菜っ葉の日】、【なにわの日】

  あ? 説明? 祝ってない日の事なんぞ知らん! ググれ! Byはじめさん。

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