7月24日は何の日ですか?

 生徒会室に行くと、そこはキュウリに占領されていた……。

 

 夏休み最初の日曜日にも拘らず、部活に出て来てみれば何だこれは……。


「あ、はじめ! おはようございます! 今日も暑いですね!」


 呆然と立ち尽くす俺に、今日も笑顔で挨拶をしてくる了華りょうか

 そんな幼馴染様は今もせっせと段ボールからキュウリを取り出している。

 ……犯人はお前か!


「どうしたんですか、はじめ? そんな難しい顔をして」


 事態が掴めず立ったままの俺を見て、不思議そうに小首を傾げる了華。

 いやいや……せめて説明をしてくれ。

 俺の調べでは今日の記念日は【キュウリの日】じゃなかったぞ、絶対!

 その気持ちを察してくれたのか、あぁ! と両手を打つ幼馴染様。


「今日は【河童かっぱの日】なんです! だから沢山キュウリを用意しました!!」


 エッヘンと小さな身長の割に大きな胸を張るお嬢様。

 すると、セーラー服が上に引っ張られて、おへそがチラリと……。

 ってそうじゃねぇ! 何処に目を奪われてんだ俺は!

 問題はそこじゃねぇ……いや、了華のお臍が見えるのはすげぇー大問題なんだが。

 違う、違う。今は気にするな俺! 落ち着いて話を戻すんだ!


「少し、少し待とうかお嬢様」

「はい? 何ですかはじめ、急に真面目な顔になって……ハッ! ま、まさかはじめ……」


 急にソワソワしだし顔を赤らめる幼馴染様。

 前髪を手櫛で整えたりして、どうしたよ本当……。 

 まぁ、とりあえず無視だ、無視。


「あーお嬢様の言ってる【河童の日】ってのは【河童忌かっぱき】の事じゃねーよな?」


 外れている事を願って問うと、


「そう! 【河童忌】! 今日は河童さんの日なんです! 私、河童さん大好きなんです!」


 物凄く嬉しそうに喜ぶ幼馴染様……マジか……え? 本気の本気でマジか!?

 了華が河童好きだった事も驚きだが、重要なのはそこじゃねぇ。

 ……【河童忌】は【河童を祝う日】じぇねーんだよ。

 クソッ……その笑顔を壊したくはないが、正してやるべきだろうな幼馴染として。


「あー、お嬢様? 一つ言っておくと【河童忌】の意味間違ってるぞ?」

「……え?」

「今日は芥川龍之介をしのぶ日であって、断じて祝う日じぇねーよ?」

「え、えぇえぇ!?」


 目を大きく見開いて驚く了華。

 いや、気付けよ……というか「忌」の文字がある祝い事とか嫌だわ。


「そ、そんな……河童の日だとばかり」


 しゅんとして肩を落とすお嬢様。

 こいつ河童が好き過ぎて、意味を考えずに浮かれやがったな。

 了華はそういった早とちりをたまにやらかす。

 そして、それをフォローするのは毎回俺の役目だ……面倒臭い事にな!


「まぁ、そう落ち込むなよ、お嬢様」

はじめ……でも……」

「【河童忌】の由来は芥川龍之介が河童好きだったかららしいし気にするなって」

「…………」

「意外と雲の上で喜んでるかもしれねーぜ? 河童の為にキュウリを用意した事」

「そ、そうでしょうか……」


 言いながら少し元気が戻ってくる了華。

 おう、その調子で笑えよ……泣くと面倒だから。

 さて、少し持ち直したところで、もう一つの問題を片付けるか。


「あぁ、それでだお嬢様? この大量のキュウリ……どうする?」

「は、はじめと一緒に食べようかなと……キュウリお嫌いですか?」


 おずおずと可愛らしく首を傾げる了華。

 いやいや、嫌いとか以前に二人で消費できる量じゃねーし!

 ……これも浮かれて買い込み過ぎたんだろうな……お嬢様マジ勘弁。

 暫し考え込み……よし、この手で行こう。


 了華を説得してやってきたのは校内の調理室。


「は、はじめ? ここで何をするんです?」


 フリルの付いた白いエプロンを着ながら尋ねてくる幼馴染様。

 おぉ~、セーラー服にエプロンって何か良いな!

 色々男子の夢が詰まってる光景だ! って消えろ雑念!


「あー、うん、今からキュウリバー作るぞお嬢様」

「きゅうりばー?」


 そうオウム返しに訊き、きょとんとする幼馴染様。

 ……マジか知らないのかキュウリバー。

 夏祭りとかで売ってる、冷えたキュウリの浅漬けなんだが……。

 まぁ、作り方は俺が知ってるし大丈夫か。


 その後、色々教えながら二人でキュウリバーを作っていく。

 ってか多いな……100本近くあるぞコレ……限度を考えろ限度を!

 

 色々愚痴もあったが、数時間後ようやく完成するキュウリバー約100本!

 

「で、出来ましたぁ~!」

「おう、完成だな。どれどれ。おぉ、割といい感じじゃねーか」

「あ! ずるいですはじめばっかり! 私も食べます!」


 言いながらポリポリとキュウリを頬張るお嬢様……色々レアなお姿だ。

 

「美味しいです……でもまだこんなに沢山……」

 

 今更ながらその多さに絶望するかよ幼馴染様!

 もう少し早めに気付いてくれ……。

 だがまぁ、消費方法も考え済みだ。


「安心しろ、お嬢様。手はある」


 困惑する了華を連れて向かうのは放送室。

 さぁーて、暑い中頑張る運動部諸君に素敵なプレゼントでもしようか!



【部活メモ】

7月24日

河童忌かっぱき

 芥川龍之介の忌日(命日)。生前好んで河童の絵を描いたり、作品に「河童」がある事による。(他に我鬼忌がきき龍之介忌りゅうのすけきとも)

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