7月26日は何の日ですか?

「は、はじめ……おはようございます。きょ、今日もいい天気です、ね」


 いつもの様に生徒会室を訪れると、不自然な程きょどった挨拶をしてくる了華りょうか

 おいおい、どうした幼馴染様よ?

 ついに夏の暑さで頭がダメになっちまったか?


「おう、ってか大丈夫かお嬢様?」

「な、何がですか? 私は平気です! 平気ですとも!」


 いや、平気じゃねーだろう。なんでそんなに震えてんだよ。

 本当に身体の具合が悪いんじゃ……。


「体調悪いなら保健室行くか、お嬢様?」

「ほ、保健室!? 保健室で何をするつもりですか!?」


 さっきまで蒼白かった顔を今度は真っ赤にする幼馴染様。

 マジで大丈夫かコイツ……帰宅させた方がいいかもしれん。

 そんな事を本気で考えていると、


「と、ところではじめ? きょ、今日の記念日は何か知ってますか?」


 恒例の質問をしてくる了華。

 そんな事やっている場合ではないと思うんだが……仕方ない。

 無視すれば不機嫌になって、余計に変な事になりかねんからな。


 さて、今日は何の日だったか……【ポツダム宣言記念日】とかだった気がするが。

 うん、これは却下。了華の事だ、歴史の勉強とか絶対に言い出す。

 ってーと、残ってるので面白そうなのは……あれくらいか?


「今日は【幽霊の日】だろう、お嬢様?」


 そう答えた瞬間、一瞬にして幼馴染様の目から光が消え、


「な、な、な」

「……ななな?」

「何でそっちを選ぶんですかぁ! はじめのバカァァァァ!」


 次の瞬間には涙目になりながら俺を罵倒してきやがった。

 いや、いきなりどうしたって……あ!

 クッソ、アホか俺は! 了華は怪談話やホラー映画が大嫌いじゃねーか!

 だから、さっきからあんなに挙動不審だったんだ、気が付けよはじめさん!


「あー、悪いお嬢様。けどそこまで嫌なら、別の日にしても……」

「【ポツダム宣言記念日】で歴史の勉強でもいいんですか!?」

「うん、無理」

はじめのバカァァァァ!」


 再びの罵倒。しかし許せ、幼馴染様よ。

 俺はこの夏、勉強はしない事にしてんだよ!


 

 

 という訳で、【幽霊の日】を祝うべくホラー映画鑑賞会になったんだが……。


「おい、お嬢様? 嫌いな割に何故しっかり準備をしてらっしゃる?」


 いや、驚いたね……お嬢様の鞄の中身、全部ホラー映画でやんの。

 DVDにBlu-ray、VHSまであるじゃねーか……用意し過ぎだろう。


「だ、だって、はじめは勉強が嫌いですし……きっとこっちを選ぶだろうなって。だ、だから、嫌でしたけど色々準備だけはしてたんです……」


 俺の疑問に涙目で答える了華。

 お、おう……何でそんなに頑張ったし。

 ってか、目を瞑って指で摘まみながら取り出すほど嫌か、幼馴染様よ。

 ……観賞会やるって、大丈夫かコレ?


 とりあえず、視聴覚室へ移動してスクリーンでホラー映画を上映開始。

 気分は貸し切り映画館。いやー、いいねぇ。面白いわ、コレ。


 因みに今見ているのは、定番の井戸から出てくる幽霊モノ。

 ビデオを見たら数日後に死ぬって話の奴だ。

 しっかし、これのVHS版を観れるとはなぁ~。

 映像の粗さも手伝って不気味度数割増しだわ。


 そんな感じで楽しんでいると、


「は、はじめ? 今、今は怖くない所ですか? お化けはいませんか?」


 俺にピッタリ寄り添いつつそんな事を尋ねてくる了華。

 目を瞑って両手で耳を塞いでれば、そりゃ分からんか……てか、真面目に観ろよ。

 幼馴染様が引っ付くもんだから、腕とかに色々当たって集中できないだろうが!


はじめぇぇぇ! い、居ますよね? ちゃんと居ますよねぇ!?」


 おう。居る、居る。私、はじめさん、今貴女の隣に居るの……ってか?

 はぁ……お嬢様が観てもいないのに異常に怖がるせいで精神的にかなり余裕だわ。

 あ、井戸から何か這い出てきた……。


はじめぇぇぇ! 今、今なにか、なにかが首筋をフワッと触りましたぁぁ!」


 そりゃエアコンの風で揺れたお前さんの髪だろうが幼馴染様。

 ……いやー、お嬢様のせいで肝心の場面も全く怖くない。

 ダメだな、こりゃ……。


 結局、1本観終わった時点で観賞会は終了する事に。

 だって全然、面白くねーし。お嬢様は常に涙目で疲れきってんし。

 加えて、暗がりで始終引っ付かれる俺の身にもなれ!

 何度でも言うが、はじめさんも健全な男子高校生だぞ!?


 ってなわけで本日の部活動終わり!

 あ? 何だよお嬢様? え? お手洗いについて来いって……お前。

 いや、もうマジ勘弁……。

 教訓、今後絶対に了華とはホラーモノは観ねぇー! 絶対にだ!!


【部活メモ】

 7月26日

◎ポツダム宣言記念日

 1945年この日、米中英の首脳が当時の日本に無条件降伏を迫る「ポツダム宣言」をドイツのポツダムで発表した事による。そして翌8月14日に日本が同宣言を受け入れ、終戦となる。尚、終戦の日はそれを国民に発表した8月15日。


◎幽霊の日

 1825年(文政8年)に鶴屋南北作の『東海道四谷怪談』が江戸・中村座で初公演された事による。タイトルを知らなくても「お岩さんの怪談物語」と言えば大体通じるメジャーな作品である。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る