7月19日は何の日ですか?

四月朔日わたぬき高校記念日部!! それが私達の部活ですはじめ!!」


 そんな珍妙な部活を作り、俺の煩悩溢れる夏休みを奪うというのか幼馴染様!!

 オージーザス。神は死んだか、こん畜生!!

 ……ふぅ……落ち付け深呼吸だ俺。まだだ。まだ焦る時間じゃない。

 まずはどういう部活か確りプレゼンしてもらおうじゃねーか。話はそれからだ。


「うん、お嬢様。具体的にはその部活は何をするんでしょうかね?」

「もうっ! はじめ、ちゃんとプリントは読みましたか?」


 少し拗ねたように頬を膨らませる了華。

 ……おう、読んだよ。読んだが分かんねーから訊いてんだよ。

 なんだよ、日々の記念日を祝う部活って……謎過ぎんだろう。


「はぁ~、仕方ないですねぇはじめは。体ばかり大きくなって……」


 いや、今それ関係なくね? てか何で軽くディスった? なぁおい幼馴染様よ?

 なんて突っ込んだら絶対面倒なので平身低頭で教えを請う。

 あ? チキンじゃねーよ。了華りょうかはな倍返しどころか100倍返しなんだよ!!

 やってられるかってんだ、クソが。


「いや、うん、悪かった。こんな俺でも分かる様に教えてくれるかお嬢様?」


 すると仕方ないですねぇ~と言いながら説明してくれる。

 しかし、その表情はどこか嬉しそうだ……おう、その顔で察したわ。

 わざとパッと見では分からなく書いたろう? 幼馴染様……マジ面倒。


「そうですね、実は毎日色んな記念日がある事をはじめは知っていますか?」

「おう、知ってる、知ってる」


 あ? 嘘に決まってんじゃねーか。

 俺が知ってんのは祝祭日とクリスマスとかイベント事だけだ。


「よろしいです。本部活はそんな毎日の記念日を祝う部活なんです!!」


 と、ドヤ顔で身長の割に豊かな胸を張る了華。

 ……いつの間にか大きくなりやがって。あ? 身長の話だよ、身長。

 

「なんとなく分かったが、具体的には何すんだよ?」


 言葉の意味は分かる。しかしやる事が不明だ。

 クリスマスの様にケーキだパーティだと毎日騒ぐ訳にもいくまい。


「う~ん……言葉より試した方が早いと思うんです!」


 俺の言葉に少し悩んでそんな事を言いだす了華。


「本当は明日から本格的に始めるつもりでしたが、今からやってみましょう!!」


 そして、唐突に訳の分からん部活の開始を宣言するのだった。

 ……如何してそうなった!?


「まず今日の記念日ですが、何だと思いますか?」


 呆然とする俺に笑顔で尋ねてくる了華。

 止めろ! そんな純粋な目で俺を見るな!!

 クソッ、夏の記念日って言ったら……。


「アレだ! 土用の丑の日だろ!?」


 本当に知らねーんだよ、畜生!!

 ただ何となく夏=ウナギって感じだろう!? 日本人なら特に!!

 そう言った俺に了華は残念そうな表情を向けてくる。


「惜しいです、はじめ。今日は戦後民主主義到来の日です!」


 知らねーよそんな日!? てか、惜しいってビタイチかすってねぇーし!!


「なので、今日はそれを記念して、民主主義的に今後の部活計画を決めましょう!」


 いや、意味分からん……。

 しかしそんな事は絶対口に出さない。


「お、おう、そうか。で? どんな事するんだ?」

はじめは民主主義を知らないんですか? 多数決で今後の方針を決めるんですよ」


 ……心底呆れたという風な表情で人を見るは止めようぜ、幼馴染様。

 てか、多数決って普通の会議と変わんねーじゃねーか。

 こっちが呆れたくなるぜ、全く。

 ……それにな、了華。お前は一つ重大な事を忘れている。


「一ついいかお嬢様? この人数じゃ多数決は少し難しくねー?」


 ここに居るのは二人だけ、そもそも多数決をする意味が無い。

 するとこっちを見てニッコリ笑い1枚のプリントを掲げる幼馴染様。


「部活には顧問がいるんですよはじめ? そしてこの紙が私への全権委任状です!」


 おい!! つまりそれって了華が2票持ってるって事だろう?


「何が民主主義だ! とんだ出来レースじゃねーか!!」


 思わずそう叫んだ俺は悪くないと思うんだがどうだろうか。


 因みに、部活計画は了華が最初に作った物が全て採用される事になった。

 ……当り前じゃねーか! クソが!!


【部活メモ】

 7月19日:戦後民主主義到来の日

 1949年のこの日、映画「青い山脈」が封切られた事による。

 「青い山脈」は石坂洋次郎が書いた若者の男女交際をめぐる青春小説だ。

 自由な恋愛、男女平等な関系等はある意味で戦後民主主義が到来したからこそ手に入った物だ。

 それらを多くの人に伝える映画が公開された日だからこそ、今日が記念日になったのかもしれない。

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