六話 鵜呑トモは歌わない。

 歌を歌った。


 突然思いついて、歌を歌ってみた。


 学校っていうのは、意外と歌を歌う機会が多い。


 入学式だったり、卒業式だったり、音楽の授業だったり、合唱コンクールだったり。


 体育祭や、文化祭でも歌ったりする。


 そんな環境は、僕にとってすごく幸せなことだった。


 はずなんだけど。


 どうしてかこの学校には。


 僕の通っているこの学校には。


 そういう行事が無かった。


 歌を歌う機会が無かった。


 この学校に入学して2年以上経つはずなんだけど、そういえば僕は、一度も歌を歌っていなかった。


 僕らは歌を歌っていなかった。


 そのことに、今更気がついたんだよ。


 国語の授業中にね。


 古文の授業。


 和歌の授業。


 先生が教壇で和歌を読んでいる時に、ふと気づいたんだ。


 あれ? そういえば歌、歌ってなかったな、って。


 だから立ち上がって、歌ってみたんだ。


 初めて、歌を歌ってみた。


 そしたら、他のみんなも立ち上がって、一緒に歌ってくれたんだよ。


 クラスのみんなで大合唱だった。


 世界が歌で溢れたみたいだった。


 もしかしたら、このクラスだけじゃなくて、学校中のみんなが歌っているのかもしれない。


 そう思った。


 合唱コンクールみたいだった。


 楽しかった。


 幸せだった。


 だけど僕らは、誰もその歌を知らなかった。


 一度も歌われていない、その校歌を、知るはずがなかった。

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