四話 鋸カナタはむしゃくしゃする。

 別に理由なんてのはねえけどさ、ただなんとなく、むしゃくしゃしたからさ。


 むしゃくしゃしてやった。


 それ以外に理由なんてねえよ。


 学校中の窓ガラスを割ったり、机や椅子を壊したりしたんだ。


 まあ、それぐらいのこと、誰でもやってんじゃねえの?


 だってさ、そんなことをしてもさ、


 別に夜の校舎とかじゃなくてさ、


 昼間の学校でさ、


 みんながいる前で堂々と、派手に暴れて、派手に壊してやったのに。


 なのに誰にも怒られないんだぜ?


 誰も止めに来ないし、誰も気にしない。


 ってことはさ、別に大したことじゃねえってことだよな。


 これぐらいのこと、俺だけじゃなくて、誰でもやってるってことだよな。


 誰もやってなくて、俺だけがやってて、誰も止めに来なくて、


 だけど誰でもやってる。


 そういうことだよな?


 だからさ、むしゃくしゃしてやった、なんて言い訳をする必要もないわけで。


 誰も言い訳なんか聞いてもこなくて。


 言い訳すらさせてもらえなくて。


 …………。


 なんだよこれ。


 やる前から言い訳を準備してた俺が馬鹿みたいじゃん?


 まあ、そんなことはどうでもいいんだけどよ。


 あーあ、大体のものは壊しちゃったしなあ。


 でも、なんかスッキリしねえなあ。


 他にやりたいこともねえし。


 そうだな、だったら今度は、俺が壊したものを元通りに直してみるか。


 直せば、また壊せるしな。


 ――――。


 ――で、窓ガラスとか、机とか椅子とか、俺が壊したものを直したら。


 褒められた。


 偉いな、助かったよ、って。


 どうしてそんな良いことをしたんだ?


 って。


 だから俺は言ってやった。


「むしゃくしゃしてやった」

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