二話 笠鳴アスカは戦う。

 決勝の舞台はこの屋上。


 歴史に残るであろう世紀の大決戦が、これから始まる。決勝に残ったのは私と――永月ながつきトウキ。


「トウキ――手加減しないわよ」


 私はそう言い放って、腰を深く落とす。


「アスカには勝てないよ」


 トウキは馬鹿にするようにフッと笑った。


 歓声が上がる。


 ――むかつく。


 私は地面を思いっきり蹴って、一瞬で間合いを詰めた。


 勢いを殺さないように全力で拳を突き出す。


 空振り――上に跳んで避けられた。


 トウキは私の頭上で飛ぶように身を翻して、後ろに回り込む。


 着地する前に、何とか体を回転させ向かい合う。


 トウキの右手がゆっくりと突き出される。


 ――否、酷くダルそうで無駄の多い緩慢な動きだが……速い。


 私は慌てて後方に跳び、距離を取った。


 トウキは右手を突き出したまま静止している。


 ――そして、笑っている。


 やはりむかつく笑みだ。


 しかし、あの右手に触れるのは、たぶんやばい……。


 トウキが突き出している右手からは、その手を覆うようにピンク色の煙が噴出していた。


 何かは分からないが……絶対にやばい。


 作戦変更。


 距離を取って戦おう。


 私は制服の内ポケットから、使い慣れた武器を取り出す。


 その動作に気づいたトウキが、こちらに向かって跳んでくる――否、飛んできていた。


 武器を取り出しながら何とかバックステップを踏んで後ろに下がる。


 しかし、トウキの方が速い。


 ピンク色の煙をまとった右手が、私の顔面に目掛けて突き出される。


 避ける、後ろに下がる、また右手が突き出される、何とか避ける――。


 それが永遠のように繰り返される。


 トウキの攻撃は速く、後ろに下がりながら避けるので精一杯だ。


 取り出した武器は既に手に持っているが、距離を取らないと使えない……。


 このままじゃ――負ける。


 後ろを確認する余裕は無いが、恐らくもう屋上の縁に差し掛かる。


 この屋上にはフェンスがない。


 ――これ以上後ろに下がったら、落ちる。


 こうなったら……やるしか無い。


 私は一か八か、先ほど取り出した武器をトウキに向け――放った。


 巨大な弾丸が打ち出される。


 ほぼゼロ距離で放ったそれは、誰かに姿を捉えられる間もなくトウキの体に接触し――そして爆発した。


 私は爆発の勢いで吹き飛ばされないように、地面にしがみつくように踏ん張る。


 やがて爆風無くなり、あたりがシンと静まる。


 私の体は――よし、無事だ。


 勝った。


 直接接触したトウキの体はバラバラになっているはず――。


 顔をあげて周りを見回そうとした時、トンと肩を叩かれた。


 それは友達と挨拶を交わすときのような、とても親しみのある優しい感触だった。


 その勢いで、私は落ちた――。


 地面が無くなる。


 歓声が上がる。


 青い空を背景に、トウキが笑って私を見下ろす。


 トウキが右手を上げると、ピンクの煙が空を覆い尽くし、あっという間に私の視界から青が消えた。


 ピンクの空と、トウキの姿がどんどん遠ざかる。


 歓声が上がる。

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