Second School World

一話 鳥居マユは雪に触れる。

 雪が降っていた。


 夏なのに。


 みんなが校庭に出て騒いでいた。


 私達もなんとなく外に出た。


「わあ……ほんとに降ってる」


 隣で森満もりみつミカが空を見上げて呟いた。


「こんなに暑いのにね。どうして溶けないんだろう」


 雪は溶けること無く地面に落ち、校庭をうっすらと白く染めている。


 私は掌を広げ、落ちる雪を受け止めようとした。


 しかし、全ての雪は私の手を避けるようにして落ちていく。


 雪を掴もうとしても掴めなくて、雪に触れることが出来ない。


「あ、あれ……?」


 不思議になって、あたりを見回してみる。


 たくさんの人が走り回ったり飛び回ったりして舞い落ちる雪に触れようとしている。


「ねぇ、ミカ。私達の体にも、誰の体にも雪が全然付いてない」


「ほんとだ――まるで雪が人を避けているみたいに降ってる……」


 私はしゃがんで、地面に落ちた雪に触れてみた。


 雪は冷たく、触れた途端に溶けて消えた。


「あっ、なるほど、そうなんだ!」


 私の行動を見ていたミカが、何かに気づいたようだ。


「雪はね、消えたく無いんだってさ。暑い中頑張って降ってきても、人に触れちゃうと溶けて消えちゃうから。だから溶けないように、消えないように、何にも触れないように、地面まで辿り着こうとしてるんだよ」


 なるほど、雪の気持ちは確かに分かる。


「地面に辿り着いたら消えてもいいの?」


「うん。雪達にとって、地面に辿り着くのが最終目標だから。それが達成できたらお終いなんだってさ」


「ふーん。じゃあ、あんまり邪魔しないほうがいいね」


「そうだね。教室に戻ろっ」


「うん」


 私達は校舎内に戻ろうと歩き出した。


 そのとき、降る雪が私の頬に触れた。


 体温で雪が溶け、冷たい感触が頬を流れる。


 ミカが私の顔を見て首を傾げた。


「あれ? マユちゃん、どうして泣いてるの? 」

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