二話 小柿リサは思考がこぼれる。

「あぁ、めんどくさい」


 思考が口からこぼれた。


 隣の席の男子が顔を上げてチラッとこちらを見たが、またすぐ机に突っ伏した。


 小声だったからか、他の人は気づいてないようだ。


 あぶないあぶない。


 今は授業中で、先生がチョークで黒板を擦る音だけが教室に響いている。


 そんな中で声を出したら周りに聞こえてしまう。


 私は時々、思考が口からこぼれてしまう。


 この間は、家で思わず「しにたい」と呟いてしまった。


 そのときは家族から心配されて、結構面倒だった。


「気をつけよう」


 やばい。


 言ってるそばから言ってしまった。


 大丈夫、小声だ、聞こえてない。


 ごまかすように、私は窓の外に目を向け遠くを眺める。


 外は雨だ。


 雲ひとつ無い青空から、激しい雨が降っている。


「変な天――」


 あぶない……。


 変な天気だ。


 雨に混ざって、ときどき人が空から降ってくる。


 見慣れたはずのその景色に、私は何故か違和感を覚えた。


小柿こがき


 先生に名前を呼ばれ、前を向いた。


 私の顔面にめがけて、青のチョークが飛んできていた。


 今時、よそ見をしている生徒にチョークを投げるなんて、時代錯誤な教師だ。


 私は素早く口を開けて、青のチョークを受け止めた。


「うえぇ……まずい。また、思考が口からこぼれる。前を見ると、先生は何事も無かったかのように授業を再開していた。こんなに寝ている生徒がいるのに、なんで私だけチョークを投げられなければいけないのだろう。しかも青色の。居眠りより、よそ見の方が悪いなんてことは無いはずだ――ん?気づくとほとんどの生徒が顔を上げて私を見ていた――え、なんなんだいったい……あぁ、めんどくさい」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る